テレアポのバイト面接に挑戦
それにしても自分に風俗嬢は多分向いていない。なんとなくそう感じ、アルバイトを再び探す。運良く当時Twitterで仲良かった男友達が「俺の働いてるテレアポのバイトで良ければ紹介するよ」と声をかけてくれたおかげで求人誌とにらめっこせずに面接にこぎつくことができた。東京で暮らすのに田舎よりも必要なのはやはり”人”だ。
この頃の私は試験会場や学校の教室みたいな閉ざされた空間に何人も人間が居るのがとても苦手で、呑気症というやつなのか、緊張によって空気を無意識に飲み込んでお腹に溜め込みすぎて具合が悪くなってしまう。それを高校で経験してなかなか過酷だったので若干の恐怖症にすらなっていた。そのため、面接当日の朝は緊張を防ぐためにマイスリーという睡眠導入剤を何錠も飲んでから向かっていた。
これがのちに大惨事を起こしてしまう。知らない人にも説明しとくとマイスリーには厄介な副作用があって、ハイ状態に陥っておかしな言動をしてしまいがちという危ないところがあるのだ。眠れるようにするための薬のくせに、逆にテンションがハイ状態になって眠れなくなり、挙句の果てには色んな人に電話やメッセージを送ってしまう上にその記憶もなくしがちという最悪な副作用が人によってはある。そんな薬を何錠も飲めば一体どうなるだろうか。
そんなわけで面接先に着く頃には完全にできあがってしまい、ろれつも回らない状態。じっと椅子に座ることもできず、一緒に面接を受ける前に説明会を受けていた若者たちは明らかに変人を見る目つきで距離を置かれた。
自分がヤバい奴にできあがっていることにすら私は気付かず、オーバードーズのせいで目に映るものがすべて二重になってしまうくらい薬の効き目がひどかった。「あれ? 片目を閉じるとちゃんと見えるのに両目で見ると二重に見える! おもしろ!」とニヤニヤして片目を手で隠したり開いたりしていた。
しばらくするとそれに酔ったのか突然の吐き気を覚え、説明会の最中に立ち上がってトイレに駆け込む私。滝のような嘔吐。自分がやったことがそもそもオーバードーズだともわかっていなかった私はただただ混乱した。
出すものを出してしばらくして席に戻るも、再び襲いかかる吐き気。今度はトイレまで間に合わず、給湯室のコップを洗うような洗い場でそこの会社の社長に背中をさすられながら嘔吐。
さすがにこれは落ちただろうな、と諦めていたが無事翌週から初出勤。初めて会った現場の社員の人からは「ああ、例のゲロの!」と呼ばれた。
テレアポの仕事は想像以上にしんどかった。普通のご家庭に必要のない物を無理やり契約させるためにしつこく何度も電話をかけることの申し訳無さときたらいかがなものか。時にはこちらがただのアルバイトだとわかってか茶化して遊んでくる人もいて、日に日に精神はすり減ってゆく始末。契約が取れても歓喜できるものではなかったので根本的に向いていないと感じた私は、そもそもやりたかった写真の道に進むべく新たにアルバイトを並行して探していた。
そこでふと見つかったのがスタジオマンのアルバイトだった。新木場にあるそこそこ大きいスタジオがアルバイトを募集しているのを見つけて「これだ!」と思った私はすぐさま履歴書をかきあげて封筒に入れてポストに投函。これがだめだったら私はもう風俗嬢になるしか道は残されていない……面接にこぎつくことすら東京では難しい。電話連絡が来るまでの数日間は本当に気が気じゃなかった。
電話が来る予定の日はずっと受話器の前に座っていた。「これが落ちたらもうおしまいだ」私は物事を白か黒かで考えてしまう悪い癖があり、これは今も無くなっていない。一体これからの人生どうすればいいんだと頭を抱えて軽く涙を流しているとプルルルと鳴り響いた。
「もしもし、☓☓(名字)です!」
「あ、☓☓スタジオの☓☓です。面接をしたいのですがご都合の良い日にちありますか?」
「(や、やった〜〜〜!!!!!)」
私は秒速でテレアポのバイト先に辞めますと電話をした。
19歳を振り返ってみて
19歳といえば今からもう10年も前だ。時間が経つのはあっという間。あの頃から何も変わっちゃいないところは山ほどあるけど、歳を重ねたことで余裕を得られたのか色々経験してきたことで強くなったのか、バイトに応募するのは昔ほど怖くはなくなった。電話を取るのは今でも怖いけど、出てしまえば案外どうにでもなる。面接も、ちょっとくらい強気な態度でいってしまったほうが案外気楽にやれる。でもそんなことを19歳の自分に言ってもわからないだろうな。「大人だからそんな余裕でいられるんだ」ときっとうちにこもってしまうだろう。
多分バイトの応募も面接も、辞めるときもどうすればいいかわからなくて結局全部バックレちゃう……なんて人は意外とたくさんいると思うけど、大人になるにつれて少しずつ平気になっていくから安心してみてほしい。(これは二十歳前後で苦しんでる若者限定だけど)
昔は「生きてればなんとかなる」なんて大人の言葉は一切信用していなかったけど、この歳になった自分は、「案外なんとかなってきたな」と思っています。
ちなみに風俗は本当にダミー求人が多いからそこは注意したほうがいいです。
つづく
Text/oyumi
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