誰のどの人生も、底なしの沼に落ちるくらいに脆い

実を言うと『正欲』を読んで、私は少しだけ「自分はマイノリティ側として人生を歩んできてよかったかも」と思えてしまった。

少数派として人生を歩んでいると、ことあるごとに「何で?」「どうして?」という質問をされる。もちろん、そうやって詮索されるのが嫌だから結婚して「アガリ」になる人生を選んだんだ、という人もいるだろう。でも、「何で?」「どうして?」をたくさん質問されるからこそ、私は自分自身と向き合う機会を多く持てたし、苦しかったけど、考え方が磨かれていったように思う。

『正欲』の終盤に桐生夏月が「いいですよね、誰にも説明する必要がない人生って」と言うシーンがあるが、「誰にも説明する必要がない人生」は実は、アイデンティティが揺らぎやすく、そこまで盤石ではないのではないか。実は、誰のどの人生も、一歩間違えば底なしの沼に落ちるくらいに脆いのではないか。『正欲』は、そんな可能性を示唆して終わる。

本書に好感を抱くか反感を抱くかはそれぞれだろうが、『正欲』は、今このときに読んでおいて損はしない小説だと思う。一気に読める物語なので、少し先のGWの読書リストにぜひ、加えておいてもらいたい。

Text/チェコ好き(和田真里奈)