世界の裏側まで行く必要はない

ネタバレになるので結末は明かさないが、『ピスタチオ』の後半は、次第に「死」の色が濃くなっていく。ただしその「死」の感覚は、日本的な、仏教的なそれとは異なる。精霊的な、アフリカ的な「死」とでも言えばいいのか。

「私が写真を撮るのは自宅の周辺だ。神秘的なことは馴染み深い場所で起きると思っている。なにも、世界の裏側まで行く必要はないんだ」(『ソール・ライターのすべて』青幻舎,p35)

これは『ピスタチオ』ではなく、写真家のソール・ライターの作品集にあった言葉だ。まだコロナ禍が影も形も見せていなかった2019年、「神秘的なこと」を探し求めに本当に世界の裏側であるアルゼンチンまで行ってしまった身としては、なかなか耳が痛い。自宅の周辺で「神秘的なこと」を探すのは私にはまだ難しいけど、『ピスタチオ』のような小説を読めば、それが少しは可能になるかもしれない……日本にいるときは、医療系のデマだけは絶対に信じたくないけれど。

そういうわけで、『ピスタチオ』とともに、雨と傘の織りなす色彩が美しい『ソール・ライターのすべて』も、おすすめしておきます。どちらも涼しげな本なので、残暑がまだ厳しいこの時期にぴったりかもしれない。

Text/チェコ好き(和田真里奈)

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