男性も(比喩ではなく)授乳できる!――『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』から見えてくること

その昔、ケニアのマサイ戦士に嫁いだ日本人女性・永松真紀さんを取材したTV番組で、永松さんが「マサイ族に日本のAVを見せてもまったく興奮しないどころか、気持ち悪いと言われる。夫に見せたら軽蔑されてしまった」と語っていたのを、今でもよく覚えている私である。それまでなんとなく「エロは世界共通!」みたく雑に考えていたんだけど、私たちが何をエロく感じ、何に発情するかというのも、社会集団における文化コードと無縁なわけではないんだろう。

永松真紀さんのことを思い出したのは、『銃・病原菌・鉄』で知られるジャレド・ダイアモンドの『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか(原題:Why Is Sex Fun?)』を、最近読んだからだ。「AVを見てドキドキする」のは人間なら誰しもというわけではなく、AVをエロだとする社会集団の中で育った人間だけ。しかし、ではもう少し普遍的なエロの要素? ドキドキの要素? って何かないのかな〜と本書を読み進めていったら、「世界の大半の(ノンケの)男性は、女性の胸と腰と尻に興味を持つ」傾向はあるらしい。理由は、その部分に蓄積する脂肪量を見ることで、その女性が出産に適した体かどうか判別できるから。逆にいうと本書を読む限りでは、残念ながら(?)「普遍的」と言えそうなエロはそれくらいしかないみたいだ。

今回はそんなわけで、『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』から、私が「おもしろ〜い」と思った部分を上げていく。本格的な夏が訪れる前に、軽く読んでいただけたら幸いである。

男だっておっぱいをあげられる!

『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』にはずばり、「なぜ男は授乳しないのか?」と題された章がある。男が授乳というのは比喩ではなく、実際に胸を発達させ、乳汁を分泌することを意味している。一瞬「な、なんの同人誌かな?」と思ってしまうけど、生物界を見渡すと、授乳のできるオスがそこそこいるらしい。そもそも、「人間の男には授乳できる機能が備わっていない」のではなく(みんな乳首はあるよね)、「機能自体は備わっているが、使われていない」状態らしいので、いってみれば妊娠出産をしていない女性と同じだ。なんと現在でも、乳頭の刺激とホルモン注射によって、男性による授乳は技術的には可能なのだそう。

ではなぜ、機能自体はあるのに使われない状態が一般的になったのかというと、父親になった男性は授乳よりも、縄張りをパトロールして妻子の安全を確保するほうが効率が良かったから。または、もしその子供が本当は自分の子ではなかった場合(托卵だった場合)、損になるから……ということらしい。

しかし、一般的には使わないのに、なぜ男性は長い進化の過程で、授乳の機能自体を失う選択をしなかったのだろうか。これについては、何らかの環境変化が原因で女性による授乳が困難になったときのためのバックアップではないか? と考える仮説があるらしく、なかなか面白いと思う。そして、テクノロジーの発展が目覚ましいこれからの社会において、「男性による授乳」はSFでも同人誌でもなくなる可能性を、ジャレド・ダイアモンドは示唆している。