男性のサイズの謎

「なぜ男は授乳しないのか?」以外にも、なぜ人間の女性には閉経が訪れるのか、なぜ人間の女性の排卵は秘匿される(というか、自分自身でさえわからない)システムになっているのかなど、普通に恋愛やセックスをしているだけだと「だってそういうものだから」でスルーしてしまう様々な問題に、ジャレド・ダイアモンドは突っ込んでいく。読み進めていくうちに、私たちがロマンも純愛もなくただただリスクとコストを天秤にかけて進化してきただけの合理的な生き物であるということに気づき、ちょっとお腹いっぱいになってしまうけど……。

もちろん、本書の大半はあくまで「現段階の研究によって導かれた仮説」であり、人間の性についてはまだよくわかっていない部分も残されている。そのひとつが、本書の締め括りに書かれている「男性のサイズの謎」だ。なんでも、人間の男性のサイズは、他の生物と比べたときちょっと謎が多いらしい。ゴリラやオランウータンのペニスは、勃起した状態で3〜4センチにしかならない。研究によると、700万年前の人間の男性のサイズは現代人の四分の一程度だったらしく、長い年月をかけてサイズを拡大してきたことには何か必然性があるはずなのだが、その理由については今日、まだ解明されていないのだそうだ。

人間の性や進化の話題は、ともすると「男性は外で働き、女性は家事と育児をするのが合理的」という保守的な結論に落ちついてしまうこともある。が、本書は男性による授乳の可能性を示唆しているし、思想ありきではなく研究結果が優先されている感があるので、それほど抵抗なく読めるんじゃないかと思う。何より『銃・病原菌・鉄』と比べるとかなり軽くて薄い本なので、ちょっとした息抜きにも最適だ。パートナー同士で感想を言い合うのも楽しいかもなので、おすすめです。

Text/チェコ好き(和田真里奈)

初の書籍化!

チェコ好き(和田 真里奈) さんの連載が書籍化されました!
『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか -女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド-』は、書き下ろしも収録されて読み応えたっぷり。なんだかちょっともやっとする…そんなときのヒントがきっとあるはすです。