ネットの危険は【匿名性】ではなく、【疑心暗鬼化】(4)

 社会学者・宮台真司さんへ「脱いいね!」に関するインタビューを行いました。第1回の「自分はイケてるぞアピールからは腐臭がただよう…“見るに耐えない”コミュニケーション 」「クソアピールをやめることができないクレージークレーマー層の“認められていない”感」「濃密な対面関係を妨げる疑心暗鬼のコミュニケーション」とご紹介させていただきましたが、第4回は「“なぜ知ってる?”疑心暗鬼を生み出すネットの危険」について迫ります。脱いいね! への道のベースとして、ぜひお読みください。

話していないことがいつの間にか周囲知られている…

宮台真司 疑心暗鬼 コミュケーション インタビュー 腐臭

宮台: 90年代末、最初の結婚していた頃、スワッピング取材をしていましたが、妻がネットで僕の情報を追尾していて、取材現場での言動について難詰されたことがあります。取材上の必要を説明しても、「口実でしょ!」って責められて往生しました。口実じゃないんですが(笑)

帰宅したら「今日、塩ラーメン食べてたでしょ」と言われたこともあります。「なぜ知ってるの?」「ネットに書いてあったよ」って。誰が見てたんだよ(笑)。もっとエグイことも、あれこれネットに書かれました。当時の『噂の眞相』と同じくらいネットが怖くなりました。

─(笑)

宮台:そういうことが度重なると、ネットで見られているんだという前提でコミュケーションせざるをえなくなります。僕は、96年頃からそういうことを気にするようになりました。当時しばしばテレビ出演していたので、どこでも顔バレして、まるで監視カメラ状態でした。

─調べると分かってしまうので、ついつい他人の情報をチェックしてしまうことがあります。

宮台:そうです。調べれば勤務先や通学先まで簡単に分かります。実際、それでツイッターの書き込みで炎上し、勤務先や通学先にまで追い込みをかけられて、会社や学校をやめざるを得なくなったケースが多々あります。ストーカーたちもネットをふんだんに利用します。

全国テレクラ調査の経験から言うと、匿名性の分水嶺は20万。20万よりも少ないと、デートで散歩しようがラブホに行こうが、誰かに見られる可能性が高い。僕が取材した女子高生は、援交オヤジと入ったラブホで、別の女子高生と援交している父親にハチ合わせしています

かつてのように昼間人口や夜間人口が密集するホットスポットがなくなり、一方で地元化し、他方で島宇宙化した人々が、各地元やクラブなどに分散すると、同種の人々の行動半径が限られてしまうので、ぼやぼやしていると、かえって人に見られる可能性が高くなります

僕がHIPHOP系だとしたら、HIPHOP系が出入りするような場所にしか行かないから、知り合いに見られてしまう。大都市圏でもそういうことが繰り返されたせいなのか、2002年頃から、さしてヤバイことをしてない連中がネットを気にしながら街で過ごすようになりました

僕はフィールドワークをやめてからもしばらくは渋谷や新宿など街をぶらぶらしていたし、ネットでディープユーザーでもあったから、世紀の変わり目あたりの変化は、自分に起こったことでもあるから、細かいエピソードを含めて、とてもリアルに覚えています。

1999年に通称「音羽の母事件」が起こったときも、お受験どうのこうのじゃなく、インターネットのメールを背景にした疑心暗鬼の問題なんだと言い続け、ネットの危険は、匿名犯罪よりも〈疑心暗鬼化〉にあるんだと繰り返し主張したけど、誰も注目してくれませんでした

【次回に続きます】