子育て中の脳の動きは、恋愛しているときと同じ
――恋愛における「リードされたい」というのも、“不自由さを好む”ところからきているのでしょうか?
池谷:これについてはもうひとつあって、恋愛は“子育てのバグ”だと言われています。
――えっ、バグなんですか?
池谷:“恋愛”は太古の昔、たとえば人がまだサルだった頃は存在していませんでした。じゃあ、どこかのタイミングで恋愛という脳内現象が突然生まれたのか、というとそういうわけではありません。動物の進化には必ずその前駆型があって、それを発達させて進化が遂げられるものです。恋愛も同じことで、その昔には恋愛の原型となるものが脳にあって、それが進化して、恋愛となった。その恋愛の原型とは、“子どもに対する親の愛情”なのです。
――そうなんですね! だから“子育てのバグ”なんですね。
池谷:実は恋愛してるときの脳の状態を調べると、子育て中の脳の状態とほぼ一緒なんですよ。
――恋愛中と子育て中に活動する脳の部位が同じってことですか?
池谷:そうです。腹側被蓋野とか、側坐核とかが活動しています。逆に、そこの活動を調べれば、「愛してるよ」と言ってる人が本心から言っているかどうかもわかってしまいます。
――本心では愛してなかった場合は、脳の恋愛&子育ての部分が活動しないんですね……。
池谷:そう。脳が動いてないから、口先だけだね、とバレてしまうわけです。
恋愛感情の登場が人類にもたらしたもの
池谷:夫側の愚痴で、「子どもが産まれた途端、妻からないがしろにされるようになった」というのがありますよね。これも子育てと恋愛の脳の活動が似ていることが関係しています。母親は子どもがかわいくてしょうがなくなると、それ以外の対象が目に入らなくなってしまうのです。
――そういうの、よく聞きますね。
池谷:つまり、子育て中は、特定の人に向く愛情が発生しているわけです。本来、子育て中だけ発生するはずだった愛情が、バグで他人に向いてしまった。それが恋愛の実体なのです。
――恋愛という感情の登場は、人類にとっては良かったのでしょうか? 悪かったのでしょうか?
池谷:恋愛も子育て同様、子孫繫栄に直結しているので、決して悪い話ではないと思います。それに、恋愛感情があると1人の相手に陶酔できるので、世界中の人を吟味しなくてもいいシステムになっているんですよ。ベストの人を探そうと、すべての異性を吟味していたら、生殖期間内に結婚できずに終わってしまいます。
――言い方は悪いですが、恋愛感情にごまかされるおかげで、妥協できるということでしょうか?
池谷:まさにそうです。恋愛していると「もうこの人しかいない!」という感情になりますよね。もちろん実際は、そんなはずないんです。でも、盲目的になれるおかげで、余計な可能性を考えず、結婚にまで至ることができます。この人のためだったら労を厭わない、という状態になるのが恋愛感情です。