見詰め合うだけで濡れるディナー/食と恋愛にまつわる欲望(1)

恋や欲望にまみれて生きる
オトコとオンナを食事から考える

鈴木みのり エロしぐさ Nicki Varkevisser

かつて小説家の開高健さんが「女と食べ物を書けたら一人前」みたいなことを、どこかから引用して書いていました。

男と女の情愛、欲望、セックス、傷跡を埋めるように人を乞い、生きるために食べ物を口にし、酒を飲み、他人と関係する。そんな生を実践し、書く。

偉大な小説家の生き方をマネることはできないけれど、何か指標にできるヒントがあるから、開高さんの著作は読み継がれてきているのではないかと思います。

開高さんの指摘からひるがえると、男を書くのもとてもむずかしい。
男との関係について話しては、結局「んー、……よくわかんない!」と放り出しては幾夜もお酒に逃げてきました。
きっと読者のみなさんにも、さじを投げ出した夜をいくつも過ごしてきた方もいるのではないでしょうか。
男について考えるということは、男と関係する自身の内の女性性と対峙する必要があるわけで、つまり自分と向き合うことから逃げてきた、と言えるかもしれません。

そこで今回のコラムでは、わたしの男性経験のなかから、食事を通して見えてくる恋愛やセックスについて考えてみようと思います。

CASE:1 会話のない食事じゃ距離は縮まらない!?

20代前半のころ、身長以外は向井理似の、1歳年下の男の子と関係を持っていました。

彼と会うときは決まって、車でピックアップして高級ホテルに連れて行ってくれ、必ずスイートルームをリザーブ。
……ここまでだと、なんて素敵な! という話になるかもしれません。が、単に彼が宿泊する部屋に行っていたというだけで、会話はほとんどなく、お互い名前もうろ覚え。

彼の宿泊先は舞浜のシェラトン、恵比寿のウェスティン、西新宿のハイアットリージェンシーと毎回宿泊場所は異なり、「日本中を飛び回ってる」とか言っていましたが、仕事も何をやっていたんでしょうか。

セックスの際は、ぜったいに部屋は真っ暗にしてラブいムードなど皆無。とにかく野獣のように激しく、文字通りに突っ込んで出すというアティチュード。自分が果てたあとは、ピロートークのピの字もなし。所在なくなったわたしはタクシー代をもらって帰る……って、あれ!? これって! 性処理班だったってことなのね!

彼との食事は、毎回ホテルのビュッフェか、ルームサービスの軽食やフルーツ盛りをつまむ程度。
うんともすんとも旨いともまずいとも言わず味気なく「ただ食べる」だけ、わたしも感想を伝える気もなくカマトトぶってボソボソとサラダをつまらなく口にしていたことが、ありありと思い出されます。

お互い自分の腹を割る気はない。
そんなふたりの関係や、彼自身の人格が、食事の内容を通して見えてきそうです。