26歳処女が彼の指先だけで…

 イヴの白い足には、ガーターで留めている透ける靴下と深紅のハイヒール。まるで娼婦か踊り子かという姿で鏡の下に置かれた身体に彼はそっと指を這わせる。

 白いレースをたっぷりと縁取っているドロワーズ。
それにも剣の刃をあてがうと、薔薇の蕾を開いていくように丹念に拡げて、めしべのように中に包まれているすんなりとした白い足を露わにしていく。

「今まで、僕以外誰にも触らせていない足だね? なんて光栄だろう。我が姫君。我が処女姫……淫らな僕の女王よ!」

 彼の嵌めている白い手袋の絹の感触が、イヴの肌をざわめかせていく。
膝を撫で、太腿を上がっていく彼の指先。
二十六歳にして初めて受ける異性の愛撫。
「あ……ああッん……ッ」
「感じているの? 感じているみたいだね。言葉も出せないほど喘いでくれて、嬉しいよ」

 その通りだったから、イヴは声もないままに頬を染める。
「僕の指を……存分に感じて」
 男は額から、整髪剤で仕上げた黒髪をはらりと落とすと、おもむろにイヴの足の付け根に口を這わす。
「う……ふぁッ」
 奇妙な声が唇から漏れてイヴは顔を赤らめる。
なんてはしたない声だろう。触れられて、ほんの少し唇を触れさせただけなのに、こんなに肌が感じている。
くすぐったい。
(『贅沢な寵愛』P10L2-P11L3)

……というヒロインの夢から始まる今作。こんな淫らな夢を見て夢イキ(寝ている間に、エロい夢を見てイってしまうことってありますよね?)してしまうイヴリン・シュルツ(二十六歳・処女)。

 二十六歳といえば、この現実世界ではまだ大人の入口ですが、イヴの住む、どこかの時代のどこかの国では、立派に年増と誹られる年齢。だというのに、母を早くに亡くし、病気がちな父親と四人の弟妹の世話に明け暮れた少女時代を過ごしてきたイヴは、いまだ男性を知らぬ身です。
しかも、年齢がコンプレックスになり、婚活に励む気にもなれず、恋も結婚もしないまま一生を過ごすのだろう……ともはや諦めの境地。

 ありますよね。父親の介護&下のきょうだいの世話で婚期を逃すとか、自分に当て嵌めて考えると辛すぎる……。
ところがある日のこと、そんなイヴのことを心配した10歳年下の妹が公爵夫人の開催するパーティーに誘いだしてくれるのです。

【後編に続く】

Text/大泉りか

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