“愛されたい”から“愛したい”へシフト『やわらかバスト』(後半)

大泉りか 官能小説 やわらかバスト 内藤みか Misterwasuu

 母性が持つ“『与えたい』”という欲望はいったいどういうものなのか――。前回に引き続きご紹介するのは、女流官能作家の内藤みかさんの短編集やわらかバスト(悦の森文庫)の一編『母乳ぴゅぴゅ』。

 小さな広告代理店勤めで、日中は子供を保育所に預けて働くワーキングマザーのカナエ。以前は満足していた夫のセックスに、産後になって突然、不満を覚えたその理由はというと……。

 セックススタイルさえも、出産してからは微妙に変化してきていた。私のほうが夫に尽くしたくなってきてしまったのである。特に息子が一人歩きできるようになってからは、その傾向に拍車がかかっていた。とにかく誰かを可愛がりたくて、誰かを抱きしめたくてしかたがないのだ。(『やわらかバスト』P.176 L4~7)

 が、成長しつつある息子は、抱っこしていたくても以前にように腕の中でじっとしていてはくれない。淋しくなったぬくもりを夫に向けて抱擁しようとも、ありがたみを感じることもなく振り払ってしまう。

 不意に、彼らは私なんかいなくてもいいのではないか、という気持ちに私は駆られた。私は誰かに愛を与えなければ生きていけない、とその時強く感じていたが、家族たちは皆、精神的に独立しているのではないか、と。
(『やわらかバスト』P.179 L14~16)