わがままを徹底的に突き通し、それでも愛される

江戸時代から続く老舗の材木問屋の跡取り息子である本山健一の社内恋愛中の相手は、わがままでお姫様体質、頑固でプライド高く、その上ぶりっ子の藤崎満里奈。
大学時代の親友にすら、満里奈が健一と付き合っているのは『打算』だと言われる始末ですが、しかし、健一には、『満里奈と自分とは赤い糸で結ばれている』という確信がありました。
それは何かというと……。

「……あああっ!」
根本まですっぽりと埋めこむと、満里奈はキスを続けられなくなり、喜悦に歪んだ声をあげた。
声をあげたいのは、健一も同様だった。セックスにおける体の相性を、一概に語ることはできないだろう。しかし、性器のサイズと角度という物質的な条件が、その多くを占めるのは間違いのないところではないだろうか。
健一と満里奈の性器は、ぴったりと合致した。結合した段階ではっきりとそれがわかるほど、眼もくらむような一体感が訪れ、動く前から感極まりそうになってしまう。声をだすかわりに、つかんだ尻の双丘に首を食い込ませば、
「あああっ……ああああっ…………」
満里奈もきりきりと眉根を寄せてあえいだ。彼女もまた、感極まりそうになっているのだった。
動くのが怖かった。
ただ挿入しただけで涙が出るほど気持ちがいいのに、動きだしたらいったいどうなってしまうのだろう。
もちろん、健一も満里奈も、すでにその答えを知っていた。知っていておののいてしまうほどの桃源郷が、そこから先には待っているのだ。
『女が嫌いな女が、男は好き』祥伝社文庫 P45L2-P46L2)

すばり、身体の相性。が、付き合い始めた当時はセックスが盛り上がるのも当たり前のこと。
そんな恋の勘違いを確信と思い込み、突っ走ってしまっていいのか健一!
……という不安は、本文を読み進めるに従い払拭されていきます。

恋人未満の関係でくり返すデート、初めて入ったラブホテル、タイミングのズレからの喧嘩と仲直り――多くの人が経験のある恋愛の甘酸っぱい過程を進むにつれ、最初はただのムカつく女であった満里奈が、等身大の人物として少しずつ理解でき、また、そのコケティッシュさが愛らしくさえ思えてくるのです……といっても、健一に比べて満里奈の個性は強烈です。
恋の綱引きでは絶対に手を緩めることなく、皆が譲歩する部分も決して譲らない。

周りに嫌われることを恐れ、誰もが我慢しているわがままを徹底的に突き通し、それを恋人に認めさせてなお、愛されている……
愛する人に対し、そこまで自分という個性を主張できないわたしは、このヒロインに嫉妬してやっかむことしかできません。
うん、やっぱり嫌いな女だ。

Text/大泉りか

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