キャシー
三十路間近になって、若い頃にもっとセックスをしておけばよかったとジョークを言うようになった。20代前半にトロントへ留学に来た自分は、新たな街で新しいライフを築くことに必死だった。昼間はカレッジで講義を受けて、夜は山ほどある宿題に追われていた。
片思いくらいならしたかもしれないが、寝る直前まで教科書と睨み合っていては恋愛やセックスに使う気力など残らなかった。
周りからすれば、売れるピークである20代前半のゲイの男の子がセックスをしていないことが不思議で仕方がなかったらしい。
「そんなにモテないの?」
「性格に問題でもあるの?」
「まさか、性感染症の治療中?」
失礼な質問をたくさん浴びせられても、自分の答えはとてもシンプルだった。
「今はセックスより優先したいことがたくさんあるし、性欲は右手で十分解消してるから」