彼はSじゃないのにいじめられる妄想が止まらない…『イジめてごっこ。』に学ぶSとM

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コトはそう単純ではない

「自分がされて嫌なことは人にしちゃダメ」という言葉を、子どもの頃聞いたことがあるだろうか?

これは自他境界があいまいな子どもに行動規範を教えるためのものだが、大人になればなるほどコトはそう単純ではないと思うようになってくる。自分がされてうれしいことを嫌がる人もいるし、絶対にされたくないようなことを求める人もいる。

そういう人と出会ったとき、こちら側と相手側の「したい/されたい」のどちらを優先するのか悩ましい。恋愛ならなおさらだ。

南文夏の『イジめてごっこ。』は、まさに、ふたりの「したい」の激突から始まるお話だ。

いじめられる妄想が止まらない

大学生のゆかちゃんは、3歳上で社会人の真広さんとお付き合い中。ゆかちゃんにとって初めての彼氏である真広さんはとても優しい。

でもゆかちゃんには内緒にしていることがあった。それは「(性的に)いじめられる妄想ばかりしてしまうこと」。実際の真広さんが言いそうにない鬼畜言動の「黒まひろ様」を脳内に作り出し、妄想してはオカズにしている。でもでもそんな自分を絶対に明かすことはできない……!

しかしゆかちゃんのヒミツは、ある日うっかりバレてしまう。勢いあまって別れを切り出すゆかちゃんに、真広さんはこう返す。

「大丈夫、俺が頑張るから」

「おれ…頑張っていいSになるから、二人で一緒にSMしよう!」

Sじゃないけど…まずは勉強だ!

『イジめてごっこ。』で描かれる大事なポイントは、ゆかちゃんはMだけど、真広さんはSではないところ。

大好きな彼女のエッチな姿にはグッと来るけど、痛い思いをさせるのはそんなに好きじゃない。でも彼女はひどくしてほしいらしい……。そんな現実を前にして、真広さんがまっさきにやるのが「勉強」だ。

SMを知るためにアダルトビデオを鑑賞するも、正直痛そうで引いてしまう真広さん。だけど期待に満ちたゆかちゃんの顔を思い出して、やっぱり頑張ろうと勉強を続ける。

よく言われているように、SMにおいてSはサービス、Mはマスターなのだ。Mご主人さまの欲望に対して、S初心者が尽くしている。真広さんはもともと尽くすタイプだから、ゆかちゃんの抑え込んでいた果てのない欲に、勉強で得た知識とゆかちゃんの気持ちのヒアリングで精一杯応えようとする。ゆかちゃんはそんな真広さんに「無理をさせている」と申し訳なくなるけれど、欲望をかなえてくれるうれしさは止めることができない。