ガソリンだけで外出するのは相当なフェチ

だが外に出るのも死ぬほど嫌いなため、折衷案として「1回の外出で出来るだけ全部済ませる」ことにしている。
つまり、買い物に行くついでにガソソソも入れたりしている。
この方式で行くと、苦悶の表情でロキソニンを買いに行くついでに大量の生鮮食品を買いにいかなければいけなくなりとても辛いのだが、それでも2回外出するよりはマシだ。

だが、その日は、冷蔵庫にはまだ動物や魚の死骸があり、不幸なことに頭も割れそうなほど痛くなかった。
つまり「ガソリンを入れるためだけに外出しなければいけない」と言う事である。

しかし、ガソリンを入れるためだけに外出するなんて、相当の外出フェチでなければやらないだろう、私にはあまりに高度なプレイすぎる。
1リッター5円ということは30リッター入れるとして、150円夫に渡せばチャラということにならないだろうか?と思ったが、理屈を説明するのに時間がかかりそうだ。

むしろ150円のために外出しなければいけないと思うとますます暗澹たる気持ちになってきた。
150円を笑うものは、150円に斬首されると思うかもしれないが、それこそ価値というものを自分の目で見ていない。
誰が何と言おうと私の人生は、外出すると150円以上の損をするのである、これこそが「価値観」というものだ。

ただこの価値観を、毎日外で働いている夫に理解させるにも150円以上の時間、場合によっては「損害」が起こる可能性が高い。

一番手っ取り早いのは「入れた」と嘘をつくことである。
私ではあるまいし、夫はわざわざメーターを調べる、などという陰湿なことはしないだろう。
そして、バレる前に動物やロキソニンの死骸を買いに行くついでに入れれば解決だ。

そして私は、結局その紙が紙クズになる前にガソリンを入れに行った、本当にガソリンを入れて帰るだけの外出であり、金額にして2500円は損した、その日の稼ぎが全部飛んだ上にドブに落ちたと言っても過言ではない。

しかし、多分夫は良かれと思ってこの紙をくれたのだ。
何であろうと、良かれと思ってしてくれたことなら、実質嫌がらせになっていてもとりあえずは嬉しいし、とりあえず受けとる。

だが、本当に嫌がらせでくれたという可能性もある。
だとしたら、嫌がらせとして的確過ぎる、相互理解は出来ていないかもしれないが、夫は私のことを理解していると言える。

Text/カレー沢薫

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