親子はわかり合えなくてもいい

ちょこっとネタバレをすると、「私」と娘は、わかり合うことができないまま物語は終わってしまう。「私」は娘の性を、最後まで理解することはない。「どうして私だけが理解して受け入れなければいけないのか」「どうして他の親がしなくてもいい苦労を私だけがしなくてはならないのか」と、悩み苦しんだままだ。でも、これが希望のない終わり方だとは私はあまり思わなくて、逆に「親子なんてわかり合えなくていいんだ」という救いのあるメッセージになっている気がする。わかり合えなくていい、ただ目の前にある今を、今日やるべきことを、無事に終えることができればいいのだと。

マイノリティの側から書かれた小説はけっこう読んできた気がするけど、そういえばマイノリティを受け入れることができない側から書かれた小説は、これまであまり出会わなかった。「親の気持ちもわかってあげて」などと言うつもりはまったくないけれど、愛があるからこそ、真面目で実直だからこそ、子供への抑圧になってしまうってのはあるのだろう。

自分の親とわかり合えなくて悩んでいる人はもちろん、自分の子供に対して思うところがある人も、読めばきっと得られるものがある小説だと思う。

Text/チェコ好き(和田真里奈)

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