生理は、ふたりの共通の敵だった

そんなあるとき、夫のおふざけが事態を好転させた。いつも通り生理前でヤバイ精神状態に陥り始めた私に向かって、夫は唐突にこう言ったのだ。

「よおし!!!がんばってこの生理乗り越えような!!!一緒に乗り越えような!!!!」

完全に松岡修造さんである。
夫は、「生理前の妻を奮い立たせる松岡修造」に化けてくれた。

このとき、めちゃくちゃに笑って、憂鬱が一気に吹き飛んだことをよく覚えている。夫は、生理期のイライラの矛先ではなくて、一緒に乗り越えてくれるパートナーだった。ずっと、情緒不安定に付き合わせてしまうだけの相手だとばかり思っていた。

すべて生理のせいにしよう。そうふたりで話し合えてからは、早かった。

夫は、私がヤバイことを言い始めると、「それは生理のせいだよ」と諭してくれるようになった。私も夫に「もうすぐ生理だから、ヤバイこと言い始めたら『ああ生理だな』と思ってほしい」と申告し始めた。すべて生理のせいにして、事なきを得るよう乗り越えようと、ふたりで団結したのだ。夫は松岡修造コーチ、私はプレイヤーとして。

……と、ここまで書いておきながら、「夫が松岡修造になったら余計にイライラしそう」という方も少なくないのではと思う。
男性は生理前のイライラも、生理中のどんよりも体験できない。ただ「乗り越えよう」と言われても、「あんたにこの辛さの何がわかるんじゃ」と吐き出したくなる気持ちもわかる。松岡修造的な底抜けの明るさも疎ましいと思う気持ち、めちゃくちゃわかるのだ。

松岡修造事変の一番の収穫は、「私vs.生理」ではなく、「夫婦vs.生理」なのだと構図を塗り替えてくれたことにある。夫は応援しかできないし、私はほぼ100%情緒不安定になるのだ。だったら、ベンチから「おーい、今きみはヤバイ状態だぞ!」と冷静に伝えてくれるのはよっぽどありがたい。私も、私がヤバイ状態であることを自覚して、日々をプレーすべきだなと思えるようになった。

それでも、なぜか喧嘩は起きてしまう。もちろん理由は生理だけではなくて、夫もイライラしていたり、酔っ払っていて気が立っていたり、持病で不安になったりすることがあるからだ。そういうときは、「あなたも今、生理が来ているのかも」などと言う。
実際、男の人もホルモンバランスの周期で情緒不安定になるとの俗説もあるらしい。私たちはそうやってごまかし合いながら、日々を乗り越えている。

「マジで生理って厄介だな」。最初に夫からその言葉を聞いた時、ものすごくショックだった。妻(私)の体に毎月訪れる、いわゆる“健康の証”をそんな風に言うなんて。どうしてそんなひどいことを、とまで思っていた。でも今は、一緒になって厄介だなあ、と言い合えている。なんとなく、生理が来ることはいいことだから憎んだらいけないのだと、勝手に思っていた。

まあでも冷静に考えて、毎月1週間はヤバイ精神状態になって、それから1週間は経血の処理しなくちゃならないんだもの。生理、めちゃくちゃ迷惑だ。そう思いながら、ふたりでこれからも乗り越えていけたらうれしい。

Text/ながち

ながち
アラサー、既婚子なし、表参道の企業で働く女。温泉オタクOLとしても活動しています。
Twitter:@nagachiharu