プロポーズがわからない

さて、今回は一旦毒親から離れまして、プロポーズのお話です。時系列的には前回の「彼を私の親に紹介」の続きになります。

私と夫は、婚活アプリで知り合った当初から、かなり強く結婚を意識していました。そもそも結婚したくてアプリに登録していたので当たり前といえば当たり前なんですが、交際二ヶ月目あたりから「結婚するために達成すべきタスクには何があるのか?」と、結婚への準備をなんとなくはじめていました。とはいえ、私も彼も当然ながら結婚するのは初めて。何が必要なのかよく分からず、準備が頓挫することも多々ありました。

全てが完璧にスピーディ、というわけでは決してありませんでしたが、それでも互いの両親への交際の挨拶や、互いの結婚観のすり合わせ、いろんなお金に関する話、将来のビジョンの共有などを済ませ、どうやらこの先50年は一緒にやっていけそうだと確認が出来ると、意外ともうやることがなくなってしまいました。

「この後はなんだ?両家顔合わせか、そういえば結納はするのか?」と私が言うと、彼が「とりあえず僕がプロポーズするのが先では?」と言いました。あ、そうなの?
互いに結婚の意志が確認できていたので、てっきりプロポーズは省略かと思っていましたがそう言うならとしばらく「プロポーズ待ち」をしてみることにしました。
しかし、あらゆる事象に対してフラットでニュートラルな視点を持つ彼でさえ「プロポーズは男がするもの」という認識なのだなぁ、我々女性も生きてるだけでめんどくさくて発狂しそうな日々だけど、男性は男性で背負わされるものが多くて大変なことよ、と思いながらプロポーズを待つこと数ヶ月。

遅くね????

待っている間に他の結婚準備を進めようにも「プロポーズ待ち」の状態となると市役所に婚姻届を貰いに行くのも、式場の見学予約を入れるのも、なんとも言えず「先走っている感」が迸り、気まずさが先にたちます。プロポーズなしと最初から分かっていれば感じることのなかった、この「交際相手に結婚を迫っている女」感。進まない結婚準備。あ、もう無理耐えられない。

「プロポーズの件、どうなりました?無いなら無いで全く構わないんですけど」

私が彼にですます言うときはうっすらイラついているときです。それを知ってか知らずか、彼は大変言いにくそうに口を開きました。

「実は、プロポーズの仕方がわかりません……」

こういうのしか、と彼は跪いてリングケースを開けるジェスチャーをしました。なるほど確かにそれは一番よく知られる「プロポーズ」のお作法でしょう。
しかし私はヅカヲタ。片膝をついて愛を伝える男役を舞台で幾度となく観て、実在の男性がただ単純に跪いても大して格好良いわけではないのを知っています。更に言うなら私は三度の飯より石が好きな宝石オタクでもあり、例え彼が選んだものだとしても、婚約指輪を私の知らないところで作られるのは嫌でした。
その二点と伝え、なので「跪いて指輪パッカーンのやつは止めてくれ」とお願いしました。

しかしこのまま彼が違うプロポーズ方法を探し、実際に行動にうつすまでには、まだまだかなりの時間を要すると思った私は彼にある提案をしたのです。

「プロポーズの台本、私が書いていいですか?」

彼は「そうしてもらえるとすごく助かるけど、サプライズだったりオリジナリティみたいなものは無くていいの?」と言いましたけど、互いに充分結婚の意志を確認し合っているのでサプライズもクソもないし、私はインスタ映えするプロポーズの一瞬よりこの先50年の日常生活の方に重きをおいているので何も問題はない、と伝えました。そこからの私は早かったです。

 「決行は今月の27日な。付き合って半年でちょうどええから。君はまず仕事終わったら駅前の花屋に行ってください。場所わかるやろ?赤い屋根ついてるとこや。そんでお店の人に“バラの花一輪ください。この鞄に入るように短くしてください”って言うねん。そしたらお店の人がその通りにしてくれはるから、それ鞄にいれて。そんで初めて会った日に乗った観覧車あるな?君の甥っ子がこないだ抽選でタダ券当てて、私たちにくれたよな?私は観覧車の前まで行くからそれ使って観覧車に乗ります。てっぺんまで行ったら鞄からバラ出して“僕と結婚してください”って言ったらええねん」

私が秒で考えたプロポーズのプランを聞いた彼は「本当にまるっきりその通りにやるけど、それでいいのか」と聞きました。それでいいから提案しているのです。

かくして、指定した日にきっちり観覧車前に呼び出された私は、自分の書いた台本通りのプロポーズを受け、晴れて彼と婚約したのでした。あ、「バラの花一輪」と指定したところを自ら花言葉を調べて「バラを中心とした花束」にしてアレンジしてきたところは彼の評価できるところだと思います。