長谷部を愛でられるのも夫のおかげ

肝心の実在の夫は、私の誕生日にどうだったかというと、王子様や長谷部の幻覚に後れを取ること3時間後、「朝は言い忘れたけど誕生日おめでとう」とLINEでメッセージが届いた。

そして帰宅後改めて「誕生日おめでとう」と言われた。

王子たちや長谷部からの「おめでとう」は、全身痙攣しながら受け取った私だが、夫のおめでとうには、血反吐を吐くこともなく「ありがとう」と答えた。

これは夫よりも二次元の男が好きというわけではない。

両者は全く別物だし、むしろ、私が思う存分二次元の男に内臓破裂心肺停止できるのも、夫がいてくれるおかげなのかもしれない。

趣味というのは衣食住足りてのことなので、河川敷で新聞紙にくるまりながら見る、「刀剣乱舞-花丸-」が楽しいかというと、やっぱり楽しいとは思うが、不用意に絶叫したりするとポリス沙汰になる恐れがあるため、やはり屋根と壁のある家で見る方がベターだろう。

もちろん家で叫んでも近所の人に「殺人事件が起きている」と通報される恐れはあるが、河川敷よりは家に住んでいる方が呼ばれたポリスへの印象もいいだろう。

つまり、私がゲームやアニメに一喜一憂できるのも、一緒に屋根のある家を建ててくれた夫がいるからなのではないかということである。

日々のなかで改めて「結婚して良かった!」などと思うことはないが、アニメが面白い、飯が美味い、夜死ぬほど眠れる、のは家族がいるという安心感あってのことだと思うのだ。

仕事だって、精神が本当に荒廃した状態で、こんな文章を書けと言われたって無理だ。

二次元キャラの幻覚が誕生日を祝いに来た、なんてとても書けない。

だとしたら、多少荒廃した方が、こんなことを書かずに済むということかもしれない。

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Text /カレー沢薫

※2016年11月30日に「TOFUFU」で掲載しました