子供の頃、おもちゃを買って貰えなかった。
特別、家が貧乏だった記憶もない。
親の方針だったのだろう。
その“腹いせ”・・・というのも妙な物言いになるが、自分の娘にはすこぶる甘い。
しつけの観点からは、褒められたものではないが、色々としてやりたい。
少なくとも、世間様並みには。
四歳になる我が娘。
彼女のお気に入りの一つに、赤ちゃんを摸した人形がある。
いわゆる、知育人形というやつで、通称“ぽーちゃん”。
勿論、正式名称ではない。
娘がそう呼ぶものだから、我が家では、専ら“ぽーちゃん”で統一されている。
この“ぽーちゃん”、実によく出来ている。
横にして寝かせれば、独りでに瞼が降りて、目を閉じる。
子供が触れる物という気遣いからか。
肌に使われる素材、その質感は柔らかく、優しい手触り。
何より、その表情やスタイルが、愛くるしい。
小さな子供が、夢中になるのも頷ける。
しかし、少々問題も。
この“ぽーちゃん”・・・一々、金のかかる女なのである。
ぽーちゃんの膨大な養育費
赤ちゃんなので、おむつの類は勿論、部屋着、パジャマ、お出かけ用の服など、衣装が多い。
小物類もバリエーションに富んでいる。
歯ブラシ、散髪のためのハサミ、哺乳瓶。
この哺乳瓶、ぽーちゃんの口に押し当てると、
「ゴクゴク・・・ゴクゴク・・・おいし―!」
などと、“お喋り”する。
声の出所こそ、哺乳瓶の方だが、傍目には、ぽーちゃん本人が喜んでいるようにしか見えぬ。
他にも、ドラム式洗濯機、アイロン、物干し台などの“お洗濯セット”。
ぽーちゃん専用のベビーカー、ベッドにトイレ。
極めつけは、家。
家と言っても、幼児が二人入れる程度の、小さなテント。
しかし、玄関や、インターホンなどもデザインされており、もはや、立派な一戸建て。
家まで来れば、もう打ち止めか・・・いやいや、油断は禁物。
お次は、“お風呂に一緒に入れるタイプのぽーちゃん”の登場。
勿論、脇を固める小物類も幾つか。
事態は、振り出しに戻る。
最初から、水陸両用にしてくれればいいものを。
とにかく。
何かと養育費が嵩むのである。
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