俺を嫁と呼ぶな
妻を「家内」と呼ぶ男性を見かけるたび「古風でカッコいいと思ってる?」「亭主関白アピール??」「単なる情弱???」とハテナが舞う。たぶん多くの人は「家内とは性別役割分業を象徴する言葉である」という意識もなく使っているのだろう。
私は夫に「俺のことは妻と呼んでくれ。奥さんはまあ許す。死んでも嫁とは呼んでくれるな」と言っている。
女に家と書いて「嫁」という言葉は、姑舅から見た「息子の妻」を指すものであり、夫が妻に使うのはそもそも間違っている。何より「うちの嫁が~」という言い方が偉そうでムカつく。
「奥さん」も「女は家の奥にいるもの」という由来からして気に入らないが、それ以外に言いようがない時もある。
80歳のおじいさんに向かって「妻はお元気ですか?」とは言いづらいし、孫でもないのに「おばあさんは~」とも言いづらい。なので渋々「奥様は~」と言っているが、他に言い方はないものか。「ご令室」だと葬儀みたいか。
私は「主人」と口にすると口唇ヘルペスができるので、同世代や年下の夫は「夫」、目上の人の夫は「ご夫君」と呼んでいる。「ゴフクン?」と怪訝な顔をされることもあるが、大体ニュアンスは伝わるし、使ってるうちに慣れるのでオススメだ。
独身時代、アラフォー女性が夫のことを「ダー」と呼ぶのを聞いて「ダー?!!!」と猪木みたいな声が出たが、今思えば主人よりずっといい。いっそのこと「ダーリン」「ハニー」「ガッズィーラ」とか、どんどん英語を導入してはどうか。
舅のことを「ヘイ、ナミヘイ!」とファーストネームで呼べる国は便利だ。一人称が「I」、二人称が「YOU」とシンプルなのも羨ましい。日本で「波平、あなたの眼鏡は頭の上よ」とは言いづらい。言えるのはパタースン特使ぐらいだろう。
私は「おまえ」アレルギーでもあり、歴代の彼氏で私をおまえと呼ぶ男は1人もいなかった。だが広告会社の男の同期には初対面からおまえ呼びされて、「誰がおまえだ貴様!」と胸ぐらをつかみそうになった。
私をおまえと呼んで許されるのは、二次元の男だけだ。
奥行のない男には「おまえ」「あんた」「ぬし」「うぬ」「そこもと」など、どんな人称代名詞を使われてもいい。でも実在する夫は私をおまえと呼んだことは一度もない。
「私は朕と名乗って夫のことはチンチンと呼んでます♡」など、夫婦によって呼び方は様々だろう。そういう普段の呼び方や言葉づかいが、2人の関係性にも影響すると思うのだ。
夫が妻に「おい、おまえ」「風呂、メシ」と話しかけ、妻は夫に「あなた、お風呂が沸きましたよ」と敬語で話しかける。そんな主人と奴隷みたいな関係はイヤだと感じるなら、「主人」呼びを絶滅させてはどうだろうか。
深く考えて呼んでなくても、夫を主人と呼ぶ習慣がなくなれば、日本の男女関係に変化が生まれるんじゃないか。
ちなみに私はしょっちゅう屁をこくので、夫に「オナラ田ポンチさん」と呼ばれている。