種族を越えた家族とわくわく動物ランド/59番目のマリアージュ

セーヌ川見ながら寄り添う夫婦の画像

 当コラムは18回目を迎えるが、振り返って思うのは「夫婦をテーマに書くのは難しい」ということだ。

最初、担当アサシン嬢から「アルさん夫婦の楽しい結婚生活を書いてください」と依頼されたのだが、結婚生活は楽しいこともあるが、基本は地味な日常の積み重ねである。

それに「大好きな夫とこんなに楽しく暮らしてます♡」と書くより「大嫌いな夫をこんなに無残に殺害しました♡」と書く方が、ネタ的に面白いに決まってる。

そもそも夫婦ネタは寒いノロケと思われがちだし、こちらにノロケる気がなくとも、寒くなりがちなのだ。

先日、某出版社の担当女子(知的クール属性)に「なんか夫婦ネタをください」と強要メールを送ったところ、以下のメールが返ってきた。

『そうですね、うちの夫はスイートな会話が苦手なので、それに苦言を呈したところ、苦肉の策として私のことを「ラブリーちゃん」と呼んでます。…寒くてすみません!!!!!!!!』

これを読んで「うむ、寒いな」と頷いたが、知的クール女子でも夫婦の会話は寒いし、知能指数もゼロに近づくものだ。

ちなみに私は夫から「ポンチさん」と呼ばれている。

これはチンポ由来ではなく、昔、関西ローカルで『モーレツ!科学教室』という深夜番組があり、越前屋俵太扮する生徒役のポンチくんの質問に白衣姿の博士が答えるという内容だった。

付き合った当初、博識な夫(ジャンルは偏っているが)に「これってどういうこと博士?」と私はよく質問しており、その流れで「ポンチさん」と呼ばれるようになった。

以上、そこそこ尺をとったがべつに面白くないし、スイートでもない。

そこで夫に「担当女子は夫にラブリーちゃんと呼ばれてるらしい、俺にもスイートな呼び名をつけてくれ」と言うと「よし、鼻くそマンと呼ぼう」と返された。

夫にとってのスイートの概念が不明だが、そんなわけでしばらく鼻くそマンと呼ばれていた。が、配偶者を鼻くそ呼ばわりする夫は外聞が悪いと思い、ポンチさんに戻すことにした。

そんな折、担当アサシン嬢から「私は夫にキチガイと呼ばれてます!」とのメールが届いた。鼻くそ以上に外聞が悪いし、そもそも呼び名なのか?という話だ。

キチガイ嬢からのメールには「他の編集部員にも聞いてみたら、タラちゃん・イクラちゃんと呼び合ってる夫婦もいました」とあった。きっと夫婦でハーイとかバブーとか幼児語で話しているのだろう。

わかる。

基本、夫婦の会話は他人様には聞かせられないものだ。「チュー」だの「だっこー」だの幼児退行してオギャりがちだし、ギアッチョのスタンド並みに空気を凍らせるパワーがある。

だがバツイチの女友達は「夫婦の会話が寒いのは仲のいい証拠だ」と言う。

彼女いわく「言い争ってるうちはマシで、夫婦仲が冷え切ると会話が一切なくなるのよ。するとその状態に慣れてきて、話し合うキッカケもなくなるの」とのこと。

そう考えると、夫婦間でどんどん寒い会話をするべきかもしれない。

というわけで、夫に向かって「チュー」と唇をとがらせたら「肛門の真似をしてるのか?」と返された。

鼻くそだの肛門だの、別の意味で幼児退行しすぎだが、精神年齢が低すぎるのは夫婦共通である。

我々は毎日キスをするのだが、最近は「いってらっしゃい」とキスした後「ヴォエエエエッ!!」と嘔吐するフリをするのが流行っている。お互いただの嘔吐では物足りなくなり「ヴォエエッ…グエエエエッ…!!!」と胸を掻きむしって悶え苦しみ、死ぬところまでやっている。そんな足して84歳の夫婦である。

熟年夫婦のキス話を読んで、静かに吐いている人がいたら申し訳ない。