正しい家族の姿

「退職後はカッパを探しに行きたいです」/59番目のマリアージュ アニア AL-01 ティラノサウルス

 サイコがパスらずにすんだのは、夫が親の言うことを聞かない子どもだったからだ。親や世間のいう常識に縛られず、自分のモノサシで生きてきたから、「男、女はこうあるべき」という固定観念もないのかもしれない。

 では、どうすれば親の言うことを聞かない子どもに育つのか?

 それは世間のいう「良い親」「理想的な家庭」じゃないことが秘訣かもしれない。

 ハウスメーカーのCMに出てくるような、理想の家族。両親がそろっていて、休日に父と息子はキャッチボールをして、母と娘は手作りのケーキを焼く。そんな絵に描いたような「良い家庭」で育ったら、私は親に反抗できただろうか?

 毒親育ちなので想像つかないが、ひょっとすると「親が喜ぶ良い子にならなきゃ」「お母さんみたいな良妻賢母にならなきゃ」と刷り込まれたかもしれない。

 毒親育ちじゃなくても、ハウスメーカーのCM的なものにモヤる人は多いんじゃないか。「これが正しい家族の形」と押しつけられている気がして。

 本来、人は押しつけられると苦しい生き物だと思う。

 子どもの頃、親に「やるな」と言われたことはやりたくなったし、逆にやりたいことでも「やれ」と言われるとやる気がなくなった。「やれ」と言われると、コントロールされている気分になるから。

 いくつになっても子どもをコントロールしたいと望む、子離れできていない親はいる。

 義母はどれだけ「勉強しろ」と怒っても息子が勉強しないので、罪悪感に訴える作戦に出たらしい。中学生の夫に「なんで勉強せえへんの…ママは悲しい…」としくしく泣いてみせたら「泣いたら勝ちやと思うなよ!!」と返されて「こいつには何言っても無駄だ」と諦めたという。そして「もう好きにせえ」と放任主義に転じたそうだ。

 親の支配から逃れるには、「こいつは思い通りにならない」と諦めさせるのがおすすめだ。

 とはいえ、義母はいまだに夫の飼育するトカゲを見ながら「私は皇太子みたいに育てたかったのに、なんでこんな変態に育ったんやろ」と嘆いていて、私は「彼は変態じゃなく変人ですよ」と慰めている。

 夫は幼稚園のアルバムに「おおきくなったらきょうりゅうになりたい」と書いていて、40を過ぎた現在も「今でもなれるものならなりたい」と言っている。「男の子は野球選手、女の子はケーキ屋さん」みたいなテンプレな夢より、スケールがでかくていいじゃないか。

 22歳の時、『恋愛格闘家』に出てくる「社内で結婚したい男ナンバーワン」と付き合っていた。会社の先輩だった彼は真面目で誠実で子ども好きで、マイホームパパになりそうなタイプだった。

 現在、彼は専業主婦の妻と3人の子どもと郊外の一戸建てに住んでいるらしい。とても良い人だったので、幸せそうで何よりと思う。

 当時の私は「彼みたいな普通の良い人と結婚すれば、自分も普通に幸せになれる」と信じていた。でも彼といると、普通になれない自分に劣等感を抱いて苦しかった。

 別れた数年後、彼が結婚式で両親への感謝のスピーチをして泣いたという話を聞いて「結婚しなくてよかったな」と思った。私は一緒に泣けなかったし、きっと両方が不幸になったはずだから。

 私は変人の夫と暮らすのが性に合っている。

 正しい家族の形なんてない。それぞれがオリジナルの幸せを見つければいいんだと思う。

※2018年4月3日に「TOFUFU」で掲載しました

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