イグアナ娘の幻肢痛
エサのコオロギが大量脱走したり、トカゲ本体が逃げ出したりと、騒動のたえない愉快な我が家。
「そんなキモい家に住むのはご免だ」という方もいるだろうが、私は爬虫類が大好き。
なので『イグアナの娘』を見た時も、鏡に映るイグアナの姿に「メッチャかわいいやんか」と思った。
イグアナの娘現象、すなわち美人なのに自分はブスだと認識している女性は意外と多い。
彼女らは「美人のくせに、わざとらしく自虐しちゃって」と反発されたりもするが、本人は本気でブスだと思い込んでいる。
そんなイグアナ娘たちに話を聞くと「子どもの頃から『あんたは鼻ペチャだ』とか『お姉ちゃんに比べて色黒だ』とか親に言われてきた」と語る人が多い。
鏡に映る自分がイグアナに見えるのは、過去の幻肢痛のようなものだろう。
かくいう私も親に「かわいい」と言われた記憶がないが、私の場合、ガチでブスだったという残念な事実がある。
私は男女の双子として誕生したのだが、オギャーと生まれた瞬間から太っており、のしのしと歩きそうな赤ん坊だったらしい。一方、弟は美人の母親に似て、目鼻のクッキリとした美乳児だった。
成長後も「弟くんはハーフみたい!お姉ちゃんは…丈夫そう」と牛や馬のような褒められ方しかしなかった私は「自分の容姿は劣っているのだ」という認識を深めていった。
とはいえ、男女の双子だったことは不幸中の幸いだった。これが同性の双子だったら、楳図かずお的な惨劇が起きていたかもしれない。
子どもの頃の記憶でよく覚えているのは、私が泣くたびに「もっとかわいく泣けばいいのに」と母にうんざりした顔で言われたこと。
弟は一度も言われていなかったので、美人の母は「私の娘なのに、なんでこんなにブスなんだろう」と不満だったのだろう。
ピアノの発表会なんかでドレスを着た時も、母は不満そうな顔をしていた。
今となっては「私がブスなのは父親が左とん平似だからで、DNAの仕業だから仕方ねえだろバーローめ!」と巻き舌で言い返すところだが、当時は傷ついたし、コンプレックスは深まる一方だった。
そのぶん、メイクやファッションの研究に血道を上げたとも言える。
米粒に仏を描く職人のようにアイラインを引く技術などを身につけ、大人になった私はそこそこの自信を手に入れた。
が、それはあくまで「おめかしバージョン」限定であり、素の自分はブスという認識は消えないため、現在もすっぴんの時はうつむき加減で「知り合いに会いませんように」とビクビクしている。
そして過去の影響から「“かわいい”に飢えてるな、自分」と感じている。