親の言うことを一度も聞いたことがない
数年前、ヨーロッパ旅行から帰国した義母に「よかったわ~!ベネズエラ」と言われて、腰を抜かしそうになった。
義母「ゴンドラに乗って運河を観光して…」
アル「お義母さん、それたぶんベネツィアです」
この会話を聞いて「どこに行ったかもわからんのやったら、旅行に行く意味ないやろ!」と言う夫、「あんたも海外旅行ぐらい行きなさい!」と逆ギレする義母。
義母「私は国際派に育てたくて、英会話も習わそうとしたのにイヤがるし。公文もすぐに辞めたし」
夫「いつの話をしとんねん!」
義母「あんたは私の言うこと一度も聞いたことないやないの!」
と、あいかわらずケンケン言い合う2人。
事実、夫は親の言うことを一度も聞いたことがないらしい。
ピアノを習えと言われた時も「ピアノ弾けたらええやないの!」「ほな自分が習えや!」ともっともな返しをして、自分の好きなことに邁進してきた夫。
義母「あまりに言うこと聞かへんから腹立って、あの子が小学生の時、電信柱に縄でくくりつけたのよ」
アル「おお、今なら通報案件ですね」
義母「そうよね。でもしばらくして見に行ったら、姿が消えてて。慌てて辺りを探したら、あの子は高い木に登ってて『ハッハー!ザマーミロ!』と高笑いされたの」
夫いわく「俺は忍者が好きだったから、『レンジャー忍法』を読んで、縄抜けの術を体得していた」んだとか。
また同じ頃、義母が「仕事帰りの夜道に変質者が出るらしくて怖い」と言うと、夫が毎日駅まで迎えに来てくれたらしい。しかも、運動靴の靴紐に五寸釘を仕込んで。
「子どもが大人に勝つには、鋭い武器で急所を一尽きするしかないと考えた」と振り返る夫。
その話を聞いて「小さな子どもが必死で母親を守ろうとしてたんだなあ…」とほろりときた私。
しかし義母いわく、離婚後、生活に困窮した際「もうお母さんと一緒に死のう?」と言ったら「死にたいんやったら勝手に死ね!」と返されたそうな。
夫「寝ている間に殺されたら困ると思って、レンジャー忍法に載ってた罠を廊下に仕掛けたりして…あれは楽しかった」
アル「楽しかった?」
かように夫はたくましい。
私はずっと、パートナーの前では鎧を脱いで甘えたいと思っていた。でも、自分より弱い男には甘えられなかった。
夫に「父親に捨てられた的な心の傷はないの?」と聞くと「全然。キン肉マンなんて豚と間違われて宇宙船から捨てられたんだぞ」と返ってきた。
夫の両親が離婚したのは、彼が6歳の時。涙ながらに「ママについてくるよね…?」と母親に聞かれた息子は「クワガタが飼えるのであれば」とキッパリ答えたらしい。
そんな夫の保育園の卒業アルバムには「将来の夢:きょうりゅうになりたい」と書かれている。「恐竜になりたかったんだ」と夫に言うと「今でもなりたい」とキッパリ返された。
ちなみに我々の新婚旅行は、福井県の恐竜博物館を訪れる旅だった(夫は三回目の来館)
夫が恐竜の爪や足跡の化石などをじっと眺めている間、私は食堂で「プテラノ丼」という鳥丼を食べていた。甘辛のタレで美味かった。
我々の結婚生活は、雑誌に載るような素敵な暮らしとは程遠い。
でも私は安心できる暮らしを手に入れた。血のつながりのない、赤の他人だった人たちと家族を作れた。人生、捨てたもんじゃないなと思う。
そして現在、夫はトカゲの飼育ケースに恐竜のフィギュアを飾り、ジュラ紀を再現している。「本当に好きなのねえ」とほっこり眺めていたある日、エサのコオロギが大量脱走するという事故が起こった。
猫は大喜びでハッスルしていたが、人間的にはハッスルできる状況じゃない。
「なんとかしてくれ」と夫に訴えると「よし、カマキリを放とう」と返され「うちは草むらか!」と叫んだ。
ある意味、ロハスな暮らしとは言えるかもしれない。
Text/アルテイシア
次回は【四十路を越えて「かわいい?」と聞きまくる女】です。お楽しみに。
※2016年7月26日に「TOFUFU」で掲載しました。
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