関東人に馴染みのない上沼恵美子

関東育ちの私は、とくに上沼恵美子というタレントに思い入れがあるわけではありません。
が、60代になってもなお現役で、日本中が注目する年末のお笑い番組の唯一の女性審査員として君臨する姿は、素直にカッコ良かった。恵美子の席だけ明らかに他とライティングが違って肌が白浮きするよう演出されているのにも痺れた。
そしてそんな恵美子が言う「自虐は突き抜けてないと笑えない」という言葉には、説得力しかなかった。
私は、今回の件で次々に出てくる恵美子の情報を知るにつけますます彼女のことが好きになり、そして、今までなぜ私が「上沼恵美子というタレントに思い入れ」を抱くことができなかったのか、その原因も知ることになりショックを受けました。

恵美子が東京をベースに活動することを禁じたのは、他でもない、彼女の夫だったのです。
恵美子の夫は、20歳の時に知り合った8歳年上のTV局のプロデューサー、上沼真平。あ、上沼って、恵美子の旧姓じゃないんだ、とまずここでゾッとするのですが、タレント活動している相手を選んでおきながら、結婚後に自分の苗字に改名させるあたりでお察しだけど、まぁなんというか、この夫がかなりモラハラキーワード満載の人物なのです。

家事をきちんとこなさないと認めない、ということで結婚後は夫の希望で専業主婦となった恵美子でしたが、わずか一年で「自分には専業主婦は耐えられない」と懇願して、夫から出された「西は姫路、東は京都まで」のエリア限定(つまり夜まで家を空けることは許さない)で芸能界復帰を果たします。 東京からの数々の条件の良いオファーや大河ドラマの出演打診すら断って(NHK紅白歌合戦の司会だけは例外として受けたことがあるものの)、夫のこの地獄のルールを40年守ってきた恵美子。

私は今回の炎上がない限り、彼女のことを詳しく知ることがなかった。なぜこんなにもキャリアのある女性お笑いタレントが、私には馴染みのない存在だったのか。なぜ、私は子供の頃から彼女の面白さに触れて育つことができなかったのか。この、世の中の多くの女性たちを苦しめ続ける「家のことちゃんとやるなら働いてもいいよ」という地獄のようなルールを、彼女が守っていたせいなのです。悔しくて泣きそう。

奇しくも、この出版不況の中、驚異的な広告収入を誇る人気雑誌VERYが、最新号の1月号で恐ろしいほどタイムリーな特集を組んできました。

“「きちんと家のことをやるなら働いてもいいよ」と将来息子がパートナーに言わないために今からできること“というタイトルです。

すごい。抱いて欲しいわ、VERY。でも、そんな心強い特集には読んでみるとまた別の悲しみも漂っていて。タイトルからもわかる通り、「夫に言わせない」じゃなく「将来息子に言わせない」なんですよね。自分たちがはかされてきた足枷の重い鎖を断ち切ろうと、傷だらけの体で斧を振り下ろそうとする女たちのイメージが脳裏に浮かんで泣きそうになってしまった。

幸いなことに私の夫は私が仕事をすることに大賛成で(まぁそれは経済的な理由がだいぶデカイけど)、掃除も洗濯も料理も大の苦手なダラ嫁の私に、文句を言ってきたことは一度もないです。
でも、そういう夫を持つラッキーな妻、という話ではない。
それが当たり前、というか、なぜ女性が仕事をすることに夫の許可がいるのか、結婚後、男性たちは今と同じ仕事を続けることに妻の許可がいるか? 結婚や出産を機に男性が家事を担うために融通のきく職場に転職するかどうか当たり前に検討する世界じゃないと、「家のこと」はいつまでたっても夫婦のことじゃなく妻のことにされてしまう。
別に男性を家庭に縛りつけたい、と我々女性は思っているわけじゃない。せめて、「ふたりで家のことちゃんとやって好きなこともやろうよ」ってしようじゃないか。

とろサーモン久保田の言葉をアレンジして、最後に言わせてもらいますね。
「自分目線の、自分だけの都合で結婚せんといてください。それで人の人生変わるんで。理解してください」

Text/ティナ助