夫が言う私の好きなところ
ない。
照れているわけではない、本当に一度たりとも言われたことがないのだ。
あるけど言わないのか、本当にないのか、わからないが、今更「私のどこが好き?」などと面倒くさい彼女みたいな質問はできないので、真相は永遠に闇の中である。
どこかしら好きなところがないと結婚しないと思うだろうが、つき合うときだって「別に好きではないが嫌いではないし、つき合ってるうちに好きになるかも」という希望的観測でつき合うこともある。
それに「嫌い」は別れる理由になるが「好きなところが特にない」は別れる理由にはならない場合があるのだ。
それに私は三次元の男にスイートなことを言われるのは苦手だ。
スイートなことは二次元の男に言って欲しいし、それも私相手ではなく、かわいいヒロインに言ってほしい。そして私は壁のシミか、側溝のフタになってそれを見たい。
心にもない甘いことをと言われるより、毎日、おはよう、おかえり、ありがとう、など普通のことを言ってくれる方がありがたいのだ。
Text/カレー沢薫
- 1
- 2