第8回:『花ざかりの君たちへ』~ドラマはイケメンを効率よく鑑賞するための装置!?~

純粋な恋愛ドラマとは言えない『イケ☆パラ』

By masterq By masterq

 みんな、どう? 最近、男子寮にもぐり込んだりしてる?

 こんにちは、ぜひ女子寮にもぐり込んでみたい福田です。
今週も往年の恋愛ドラマをあえて見直し、勝手に深読みしていきましょう。

 今回のテーマは、堀北真希が男装してイケメンばかりの男子校に潜入する異色のシチュエーションが話題を呼んだ、『花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス~』(2007年)です。

 このドラマは、アメリカ育ちの少女・芦屋瑞稀(堀北真希)が、憧れの走り高跳びの選手だった佐野泉(小栗旬)を追いかけて、イケメンばかりが通う男子校「桜咲学園」に男子生徒として編入する、という物語です。

 憧れの泉と男子寮で同じ部屋になってドキドキしたり、周りの男子生徒に女だとバレないかハラハラしたりと、原作が少女マンガなこともあって、ストーリーは荒唐無稽。
瑞稀と泉が早くも中盤でお互いの気持ちに気付いて両思いになってしまうなど、2人の恋愛ドラマとして楽しむには、いささか盛り上がりに欠けるところがあります。

 しかも、“恋敵”として登場する同級生の中津秀一(生田斗真)は、瑞稀のことを女性と気付かないまま“男として”好きになってしまい思い悩む、という設定。
どちらかといえば“疑似同性愛”的なやりとりに“萌える”仕組みになっており、恋愛ドラマとしてはかなり変則的と言えるでしょう。

必要なのはイケメンを鑑賞するための舞台装置

Chad Buchanan by Ryan Abel By Ryan Abel Chad Buchanan Ryan Abel By Ryan Abel

 それでも、このドラマが10代の女子を中心に人気を集めたのは、『イケメン☆パラダイス』というサブタイトルの通り、本作がひとえに“一度にたくさんのイケメンを見られるドラマ”だったからにほかなりません。

 桜咲学園の生徒役には、前述の小栗旬、生田斗真をはじめ、水嶋ヒロ、山本裕典、岡田将生、溝端淳平など、今をときめくそうそうたるメンバーが勢揃い。 視聴者の女性は、逆ハーレム状態の学園生活を疑似体験して“ウハウハな気持ち”を味わっていたのでしょう。

 そこには、“もしも自分が瑞稀(堀北真希)だったら…”といったような、回りくどい感情移入や共感、リアリティはもはや必要ありません。 必要なのは、“できるだけ効率よくイケメンを鑑賞する”ための設定とシチュエーションのみ。

 前回、恋愛は人生をちょっと楽しく豊かにするための“お祭り”になったのだ、と書きましたが、『花ざかりの君たちへ』はまさにその“お祭り”状態を無理やり作りだすための舞台装置でしかないのです。
その証拠に、本作は『花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス2011~』として、前田敦子主演でたった4年後にリメイクが製作されています。
異例とも言えるリメイクまでの短さは、このドラマがその時どきのイケメンを入れ替えて消費するための“システム”であり、ストーリーはそのための“入れ物”でしかないということを示しています。

“当事者の恋愛劇”から“部外者の鑑賞劇”へ

 このドラマは、同じく人気少女マンガをドラマ化してヒットした『花より男子』(2005年)と、基本的には同じ構造を持っています。
 お金持ちばかりが集まる英徳学園に、ひとり貧乏人の娘として紛れ込んでしまった主人公の牧野つくし(井上真央)は、イケメン同士の対立や友好といった“やおい的じゃれあい”を覗き見する視聴者の代表です。
それでも、かろうじてつくしは、道明寺をはじめとするF4たちとの恋愛劇の渦中に巻き込まれる当事者の“女性”でした。

 しかしそれから2年後、2007年の『花ざかりの君たちへ』になると、主人公の瑞稀はもはや“女性であること”さえ隠ぺいした男装の存在として、やおい的な世界にもぐり込みます。 ドラマはもはや、恋愛の当事者=女性である瑞稀の恋愛劇ではなく、“イケメン同士のじゃれあい”を、コミュニティの部外者=男装の瑞稀が覗き見する鑑賞劇、という段階に移行しているのです。
第3回で『きみはペット』を取り上げたときにも書きましたが、これは女性が主体的に“男を愛でて楽しむ”ようになった時代を反映していると言えます。
“イケメンを見てときめきを味わう”ための方法として、“女性=わたし”が疑似恋愛の当事者になる必要はなくなりました

 むしろ、『美男ですね』『桜蘭高校ホスト部』といった“女性が男装して男性コミュニティにもぐり込む”ドラマが増加していることからは、女性として疑似恋愛のステージに上がることを拒否し、性別を超越した特権的な立場から、ただただイケメンにウハウハしていたい、という倒錯した願望を感じることができます。

 そんなドラマが10代の女子に熱狂的な支持を受けていたという状況に、あらためて時代が進んでいることを思わずにはいられません(笑)。

Text:Fukusuke Fukuda