こんにちは、oyumiです。
前回フェミニズムにまつわる記事を書いてみましたので、今回は女性が出てくる話で個人的に好きな作品を紹介しようと思います。フェミニズムと関係があるわけじゃないですが……。
獅子文六先生の『コーヒーと恋愛』。
私は強い女を描く男性の作品が特に好きでして。そのうちの1つでもあります。
コーヒーといえばシティの代名詞。なんてったって都会の若者は足を休めるために喫茶店へ入るし、アニメだって男と女が待ち合わせるときはやはり喫茶店なのです。(ただし昭和のアニメ)
さらに、コーヒーと恋愛といえばサニーデイ・サービス。2ndアルバム「東京」に収録されている曲のタイトルでもあります。
コーヒーは何かと物語を持っている不思議な飲み物なのです。
(※以下、ネタバレしていますのでご注意を)
『コーヒーと恋愛』の簡単なあらすじ
主人公のモエ子は中年の名脇役女優。演技だけでなくコーヒーを淹れる腕もすごいのだ。
そんな彼女には8個下のヒモ旦那がいる。彼はある日突然「生活革命が必要」などとほざき、同じ劇団の年下の女と一緒に暮らすためモエ子の家を出る。
日本可否会という、コーヒー好きのインテリたちが集うサークルみたいなものがあり、そこではそれぞれがコーヒーを淹れて批評し合うのだが、モエ子もその会員の1人。
そこの会長である菅貫一がモエ子をえらく気に入っていた。愛妻を失くしており、そろそろ再婚もいいんじゃないのかとまわりが2人をくっつけようとしだすのだ。
ところが一つ問題があった。男はモエ子自身ではなく、彼女が淹れるコーヒーを目当てにしていることである。
8つも下の元夫か、8つも上のおじさんか。はたしてどっちを選べばいいのか!?
……最終的にモエ子は「どちらも選ばない」を選択し、物語を終えるのでした。ちゃんちゃん。
とまあ、そういうお話です。
恋愛・性の革命が起きていた1960年代
この小説は、1962年から1963年まで新聞で連載されていたものです。
恋愛結婚が大衆化し、純愛主義が生まれる時代のど真ん中でした。1960年代は恋愛や性において価値観に大きな変化があった時代です。
それまでは戦争をイメージするものが多かった歌謡曲界でも純愛や青春が歌われるようになり、映画では恋愛ものがヒット。恋愛・性の革命が起きていたのです。
主人公・モエ子の夫でありヒモである勉という男は、「生活革命」を起こそうとします。
この頃は激しい学生運動もあったし、アメリカやフランスでのフェミニズム運動も盛んだったので日本は少なからずその変革の影響は受けていたはずです。
時代を考えても、女が一回り年下の男と結婚して(内縁の関係ですが)食わせてやるのは、めずらしいスタイルだったのではと思うのです。
女は男より稼いではいけない、専業主婦であるべきだ
稼ぎの多い女が、稼ぎのない男を食わせる。今でもさほど珍しくなりましたが、当時としては男にとって良しとされるスタイルではなかったようです。
そのため、作中ではこのような言葉が目立ちます。
菅は、それから、モエ子夫婦に警告を発した。妻が夫に比べて、過大な収入があるのが、そもそも破綻の因であって、モエ子は、少し、働くことを、控えなければならない。−172p
「それア、結構ですね。それで、女優稼業をキッパリやめて、主婦業専門になる決心でも、語りましたか」
中略
「それは、わかります。モエちゃんも、気にしてるようで、できるなら、今の職業を捨ててもという考えが、ないでもないらしいが、決断がつかないらしいんです。どうも、収入や財産のある女の結婚というやつは、厄介ですよ。出戻りで、兄の家へ寄食してるというのなら、簡単なんですがね」−311p
この作品では「女が男を食わすこと」を否定的に描いている様子はありません。むしろ、男は頭が固くて日本の古い価値観にしばられているのだという印象を強く受けます。
- 1
- 2