“インドア”ラブコメの正体は、まさかのスポ根映画!?
1950年代のフランスのファッションや髪型、カルチャー。レトロだけどポップに満ち溢れた映画の雰囲気の居心地が良いのです。
タイプするだけなんて地味だし、暗いし、動かない。カタカタと音が鳴っているだけの映画でしょう?
いやいや、タイトルは『タイピスト!』です。「!」が付いています。
それくらい勢いを感じさせてくれるのは、本作が“インドア”と見せかけたスポ根映画だからです。
ルイにジョギングまで強行させられるローズは、まさにコーチと選手の関係。タイプライターをボール、ラケット、ゴーグルなどと自由に置き換えることができる。
ルイは厳しく指導する分、ローズをよく見ている。一番の応援者であり、理解者なのがルイなのです。だからこそ、燃え上がる恋の行方にハラハラする。
最初はそんな気は無かったけど、次第に……なんて下りもなかなかときめかせてくれるので、カタカタがドキドキに変わる瞬間に感動が生まれるのです。
見ていて残念なくらい不器用なローズが、どんどん可愛く見えてくる。これはルイの仕業なのかも知れません。
才能だけでは幸せになれない?
ローズはルイの指導により、ぐんぐんとタイプのスピードを速めて成功していく。 それでも、何か満たされないことにローズは気付く。
ルイが傍にいないこと、恋の才能に気付かせてくれた人の不在に物足りなさを感じたとき、スポ根映画が恋愛映画へと変貌を遂げるのです。
世界大会で、強豪のアメリカ人タイピストと対峙するローズ。
そこでルイが繰り出す印象的なセリフがある。
「アメリカ人はビジネスを、フランス人は恋をする」
これはフランス映画の宣戦布告とも言える。その証拠に、ローズとルイの恋がある。
そして、ラブコメとはいえラブシーンが結構エロい。多くの男女の本能を奮い立たせる、完全なる性描写です。
こういった抜け目のない恋愛描写こそ、世界大会で優勝を狙っている「フランス映画」そのものなんじゃないでしょうか。
いわゆる“恋の力”で這い上がるローズと、恋愛映画の底力を見せ付けるフランス映画が重なる。
それがまたユニークで、この映画自体がまるでローズのように愛らしくてお茶目なところが憎めないのです。
果たして、ローズは世界大会で優勝するのか。そして、ルイとの恋の行方は?
ローズにとって、一番の幸せとは何か分かるはずです。
カタカタと音を鳴らせば鳴らす分、いつかは恋に発展する? いやいや、現実ではそんなことありえない。そう思う人だっていると思います。
この映画がファンタジーかどうかは、ローズのようにタイプ以外の“才能”に気付くかどうかにかかっているのかもしれません。
8月17日(土)よりヒューマン トラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー!
監督・脚本:レジス・ロワンサル
キャスト:ロマン・デュリス、デボラ・フランソワ、ベレニス・ベジョ
配給:ギャガ株式会社
2012年/フランス映画/111分
URL:映画『タイピスト!』公式サイト
Text/たけうちんぐ
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