『君の名は。』とんでもない傑作!「運命」を描き切る、男女入れ替わりの青春物語

たけうちんぐ 君の名は。 神木隆之介 上白石萌音 新海誠 東宝 2016「君の名は。」製作委員会

 とんでもない傑作が生まれた。現代人の孤立する心と、時代を超える心象風景と、フィクションに救済を求める人々。今の時代を象徴するようで、古くから続く伝統芸能のようでもある。
“ロマンチック”という言葉をこの作品のためにずっと取っておきたかった。

 携帯電話は遠く離れた場所でもいとも簡単に人と人を出会わせてくれる。でも、遠く離れた時間だけは繋げられない。その画面の中の自分はどれだけ盛れても、別の人に生まれ変わることは絶対にできない。
ただし、瀧と三葉を除いては。

 決して出会うはずのない都会の男の子と田舎の女の子が、夢の中で入れ替わる? そんな奇想天外なファンタジーと青春ラブコメを織り交ぜるのは、『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』などで国内外ともに高い評価を得るアニメーション監督・新海誠。
神木隆之介、上白石萌音、長澤まさみ、市原悦子といった豪華な声の出演陣を迎えた日本のアニメーションの未来を担う新作は、言葉では言い表せない“運命”というものが一体何なのかを美しく描き切る。

どこにでもいる普通の男子/女子に心を通わせる

たけうちんぐ 君の名は。 神木隆之介 上白石萌音 新海誠 東宝 2016「君の名は。」製作委員会

 全く新しいタイプのラブコメだ。時間と場所を飛び越えて巡り逢うロマンチックな物語が、千年ぶりの彗星の来訪によってサスペンス調に変わっていく。ただのラブストーリーでは済まない。一度に何本もの作品を味わえるかのよう。安易な青春モノに落ち着かない意欲的な作品に仕上がっている。

 会ったことのない二人が夢の中で入れ替わる。瀧は三葉の髪型も気にせずに女子としての振る舞いを無視するし、三葉は瀧が好意を寄せている年上の女性へ勝手にアプローチを続ける。「勝手なことをするな!」と互いに「バカ」「あほ」と自らの頬に書き残すことで不満をぶつけ合う描写が新しい。

「男の子と女の子の姿が入れ替わる」これは大林宣彦監督の名作『転校生』と同じ。でも、決定的に違うのは二人が「出会っていない」。互いに携帯に日記を書き記すことが唯一のコミュニケーション手段なのが極めて現代的で、異性との距離感や友人との関係など同世代の少年少女からの共感が得やすい描写が重なる。

たけうちんぐ 君の名は。 神木隆之介 上白石萌音 新海誠 東宝 2016「君の名は。」製作委員会

 瀧が女の子の姿になったファーストインパクトとして、まず胸を触る。大正解。これは男として絶対に避けられない。そこをクリアすることで主人公に親近感を得る。どうでもいいことのようでも、これは重要なこと。どこにでもいる普通の男子、普通の女子であることで、都会/田舎で暮らす等身大の瀧と三葉に感情移入させていく。