二人の会話の隙間を埋めるように、カエルの声が強くなる。遠くでけたたましい電車の車輪が鳴ると同時に、後ろから車のヘッドライトが走り、トモヤは美和の隣に—しかも車道側にさりげなくー自転車を移動させる。
道は狭く、車は二人の前でゆっくりと走った。じゃりとタイヤと地面がこすれる音がなり、トモヤの体をスキャンするようにライトが走る。心までスキャンしてくれたらいいのに。
車が通り過ぎ、静寂が戻ると気まずさが辺りに蔓延した。トモヤは一歩も動かなかった。美和もまた、一歩も動かずに、ただし視線だけはトモヤと逆のほうを向いていた。
そのときだった。
あたたかな手が、美和の手にあたる。
硬直する美和。大きな手が、美和の手を不器用に掴む。
「ぁ」
小さな声が、喉の奥から漏れる。
トモヤは「帰ろ」と声をかけ、自転車を片手で押しながら歩きはじめる。美和と同じ歩幅で。
「いやだったら言って」
「あ……いやじゃない。いやじゃないけど、でも」
美和はそう告げて手をほどき、下唇を噛む。なぜか涙腺が緩み、涙を止めるために息を吐く。
「いやじゃ、ない」
手を握ると、トモヤは泣きそうな顔をしていた。美和もまた、複雑な顔をしていた。二人は手をつなぎ、また歩き始める。ふたりの手のひらはあたたかく、ほんのりと汗をかいていた。そこにはまるで梅雨が閉じ込められたようで、ほんのわずかに夏の予感がした。