息子の誕生日に覚えた、なんともいえない感情
一月某日のことでした。その日は息子の3歳の誕生日で、昼間は家族揃って東京ドームシティまでサーカスを観に出掛けました。夜は夫が自分の経営しているバーに出勤するというので、お祝いのパーティーは後日催すことにして、いつもと同じように9時過ぎに息子を寝かしつけると、いつものように布団から抜け出し、いつものようにダイニングルームに戻り、いつものようにパソコンを立ち上げ、いつものように発泡酒でも飲もうかと冷蔵庫を開けたところで、ふと、なんともいえない侘しさが襲ってきました。
息子が3歳になったということは、わたしも3年の間、母業をやってきたということです。夜は週6で不在の夫に代わって毎晩ひとりで寝かしつけをして、熱を出したときには、ひとりで病院に連れて行ったこともあった。
早々に保育園に通い始めたし、お風呂は出勤前に夫が入れてくれるので、“過酷すぎるワンオペ育児”とまではいかないけれど、それでも息子が寝入った後は、コンビニすら気楽に行くことのできない不自由さや、何かあったときにはひとりで対処しなくてはならない不安を抱えた3年間を過ごしてきたのです。
侘しさの原因は、その3年間の労力を慰めてくれる何かが不足していること。が、友人に「今日は息子の誕生日なんだけど、育児を頑張ったわたしを労ってほしい」とLINEを送るのは、暗に息子への誕生日プレゼントをねだっているかのように誤解されそうですし、相手側はプレゼントを贈らないといけないような気持ちになるに違いなく、それは不本意です。
また、ツイッターでこの気持ちを呟けば、不特定多数の人たちから即座に肯定のリプを貰えるであることもわかっているけれど、それで満たされるのかというと、ちょっと違う気がする。
友人から届いた、出版記念イベントの誘い
いったいどうすれば、この、わたしの侘しさを拭えるのだろうか……まずは発泡酒の代わりに、冷蔵庫に一本だけ冷やしてあった、いつかのホームパーティーの名残のスパークリングワインを開けました。
ちょっとだけ贅沢をした気分になったものの、酒の種類が変わっても、やることはやっぱりいつもと同じで、パソコンのブラウザを立ち上げ、ツイッターをチェックし、次にフェイスブックにアクセスしたところ、友人の編集者から『バンコクドリーム~Gダイアリー編集部青春記』という書籍の出版記念イベントの招待が届いていたことに気が付きました。
書籍の著者は、たまに飲みの席などでご一緒することもある、アジア専門ライターの室橋裕和さん。室橋さんがバンコクで『Gダイアリー』という雑誌の編集部員として働いていた当時の舞台裏を描いたノンフィクション本を刊行し、そのイベントが行われるという案内でしたが、実はこの『Gダイアリー』という雑誌には、わたしもかつて連載をさせていただいていたことがあり、その当時の編集長や執筆者たちとも面識がある。
えー、これは参加したい! 夫に遅番出勤にしてもらおうかな……なんて思いながら、イベントの開催地をみると、なんとタイのバンコクとなっています。オイ! 気楽に参加できる場所じゃない! というか、子持ちにバンコクで行われるイベントの招待とか送ってくるんじゃねー! 参加できるわけないだろ! どうせ無差別に招待ボタンを押してんだろ!!!
と、スパークリングワインで酩酊しつつある頭の中で毒付きつつも、ハッと気が付きました。これ、わざわざ日本から子持ちで参加したら、すっごく面白くないか、と。
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