「人に堂々と誇れるものは何か」と問われると、「わたしはこれ」と、即答できる人とできない人がいると思います。
わたしは即答できないタイプで、それは、出版業界で20年近く生き延びてきたことやフリーランスになってから筆一本で10年食ってきたことを、誇りに思っている一方で、「果たして、人様に読んでもらうような、価値のある作品を残してこれたのだろうか」という自問が常にあるからだと思います。
けれども、ひとつだけ「これって、すごくね?」と誇れることがあります。
それは、一緒に旅行してくれる女友達がいること。子連れという、旅のパーティーに加えるとあからさまに面倒な立場にも関わらず、単身だったときと変わらずに、変わらず一緒に旅行してくれる。そんな女友達がいるっていうことを、わたしは堂々と誇っていいと思うのです。
釜山で起こった、ワインのコルクが開かない事件
というわけで、先週末は女友達ふたりと息子とわたしの四人で、二泊三日で釜山に行ってきました。定番の焼肉やユッケはもちろん、名物のデジクッパに挑戦したり、チムジルバンという健康ランド的なとこでグダグダとビールを飲んだり、蟹市場の食堂で無言で蟹身をほじったり、漁村の海女がやっている掘立小屋で、新鮮な生牡蠣やナマコやサザエやアワビやホヤの刺し身を堪能し、そして迎えた最終日の夜のことでした。
その日の夕食は、フライドチキンのお店でした。フライドチキンの店といってもファストフードのチェーン店ではなく、市場の片隅にある、おばちゃんふたりが切り盛りしている小さな個人商店で、目の前の路上にコンロやまな板が置いてあり、そこで丸鶏をぶった切って調理するスタイルのワイルドなお店です。
店内スペースには、4人掛けのテーブルが3つあり、そのうち、右手の窓際には60歳前後の男性女性ふたりずつのグループ、左手の壁際のテーブルには20代後半から30代前半とみられる男性3人組が座っていました。みな地元の人たちです。
わたしたちは、スーパーで買ってあったワインを持ち込んで飲んでいいかを店員のおばちゃんに確認し、OKが出たので、真ん中のテーブルに腰を下ろし、フライドチキンをオーダー。旅行が終わりに近づいていることに、一抹のさみしさを感じながら、最後の夜に乾杯すべくワインを開けようとオープナーを挿しこんだのですが、困ったことにコルクがびくともしない。
「固すぎる!」
女友達と交代しながら、オープナーを力いっぱい引っ張ってみたものの、コルクはちっとも動きません。と、そこで窓際の中年グループの男性のひとり――仮にK氏とします――が、達者な日本語で話しかけてきました。
「手伝いましょうか?」
わたしたちよりも、男性のほうが力も強いことは間違いないので、ありがたく言葉に甘えることにして、オープナーが刺さったままのワインを手渡しました。
ところが、男性の力でもっても、びくともせず。K氏は早々にギブアップし、向かい側に座っている同じグループの男性にバトンタッチ。
けれどもこちらの男性はだいぶ酔っ払っている様子で、その場で立ち上がると、コミカルに顔をしかめ、なにやら叫び声をあげながら、オープナーを引っ張るのではなく、ぐりぐりと回して押しこんで、もうこれ以上、深くは入らないところまで行っても、さらに押しつづけている。
「ちょっと、ちょっと何やってんの! 瓶が割れちゃう!」と慌ててボトルを取り戻し、仕方なくビールをオーダーしたものの、それでもまだ諦めきれずに、オープナーを引っ張りつづけていました。
それに見かねたのか、K氏はわたしたちのテーブルを飛び越して、壁際にいる若い韓国人男性の三人組に声をかけ、「お前ら、これを手伝ってくれ!」とパス。
アラサーの男性三人組は、正直面倒くさそうに、それでも仕方なく、申し訳程度にコルクを抜こうと試みたものの、即座にギブアップして、またもやワインはわたしたちの手元に。
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