「指輪が……ない!」

しかし、その幸せの余韻に浸ったまま、ホテルに戻って一段落ついたところで、なぜか夫が、せわしなく部屋中を行ったり来たりしながら、あたりを引っ掻き回していることに気が付きました。いったいどうした。尋ねたところ、返ってきた言葉は「指輪が……ない!」

なんと、昼間買ったばかりの指輪を失くしてしまったというのです。あまりのバカらしさに何も言えないでいると、夫はデジカメを取り出し、先ほど撮った画像を、チェックして叫びました。

「ここではまだしてる!」

それは野外レストランの看板の前で撮った写真でした。モニター上で画像を拡大すると、夫の左手の薬指には金の指輪が光っています。ということは、砂漠で砂遊びの最中に失くした可能性が高い……。どんだけ迂闊なの?

怒りよりも呆れが先に来ましたが、同時に「安い指輪でよかった」と思いました。そして気が付きました。わたしは指輪に執着していると思っていたけれど、実はまったくしていない。だって夫が指輪を失くしたことがまったく悲しくないし、むしろおかしくて仕方なかったからです。なかなかいないじゃないですか、買った初日に、ドバイの砂漠で指輪を失くす人なんて。

いまでも、遠くドバイの地に、わたしの手元にあるものとペアの結婚指輪が埋まっているんだなぁと想像すると、妙な親近感が沸いてきます。結婚10年目のお祝いは、ドバイのあの砂漠に戻って、指輪を探してみるのも楽しいかもしれません。ああ、ロマンチック。

Text/大泉りか

初出:2018.06.02

次回は<「花を綺麗だと思う女の人になって」とモラハラ彼からの贈り物>です。
彼氏・彼女への誕生日プレゼントには、どんな贈り物を選ぶのがおすすめなのでしょうか?サプライズで用意するのもいいですが、恋人への願望の押しつけにならないように注意。大泉さんがおすすめなのは、パートナーの欲しいものを肯定する方式がリクエスト制!