「悲しみ」より「怒り」に支配された人

 書かれていたことを、ものすごくシンプルに簡略化すると「海を越えて、この呪い、お前らに届け!」。それを、なんといえばいいんでしょうか……壊れておかしくなりかけている人独特のおかしな言葉遣いや言い回しで書かれている文章でした。それまで、「おかしくさせてしまったのは、わたしのせいかもしれない」という罪悪感がないわけでもなかったのですが、けれども、その文面を見た途端に、いい加減うんざりだという気持ちが強くわきました。

 そう、わたしが壊したのではなく、もともと彼はそういう人だった。付き合い始めの頃は、わたしが朝まで飲んでいたりとか、男友達とやたらと親しいとかの、自分の気に食わないことがあると、よくこういうふうにおかしなことを言って暴れていたのです。だから、わたしはYと付き合っている最中、その「おかしな部分」が出ないようにと自分を押し殺して、気を遣っていた。わたしが気を遣うのをやめた瞬間に、Yの本性が出ただけなのです。

 突然の別れを目の前にして、悲しむのは当然の感情です。けれど心を支配しているのが「悲しみ」ではなく「怒り」のこともある。そのことに無自覚だと、可哀想な自分を哀れみながらも、怒りに任せて相手を責めることになる。そこには、愛しているはずの相手の気持ちはひとつも慮られてはいません。ただひたすらに、満たしていたものを奪い取られた自分、自分を置いて去っていってしまうことに怒り、泣いているのです。

 そのことに気が付いたわたしは、そのメールを読み返すことなく、さっさとゴミ箱フォルダに捨てると、「うわー、めちゃくちゃ怖いメール来たよ」と彼に笑って記憶からさっさと消去し、翌日には、空港でYが待ち伏せしてはいないか警戒しながらも、台湾に向けて出発しました。
台湾はわたしにとって、そういう甘くて苦い、思い出のある国です。そして、いま、夫となった彼と「あの時は大変だったね」と笑って一緒に生きています。

Text/大泉りか

次回は<なぜバンドマンと付き合ってはいけないのか…私怨で言います、クソが多いからです>です。
女が付き合うと痛い目に遭う職業3Bといえば、美容師、バンドマン、バーテンダー。一体なぜ付き合ってはいけないのかについて、「バンドマンはとにかくクソが多い」と吐き捨てる大泉りかさん!女癖以外にも金銭面でさんざん苦労させられる……と語る大泉さんは、昔の彼と何があったのでしょうか?