近すぎる彼とのライバル関係
自分が望む将来の生活を想像して「お金持ちの彼がいい」「将来性のある彼がいい」「安定企業に勤めている彼がいい」と、彼の持つスペックで、恋をするかしないかを選ぶのは、とても賢いやり方だと思います。
あざとい女だと誹る人もいるかもしれないけれど、貧乏な男性と付き合い、一見支えているふうに見える女性だって、実は「自分が優位になれる」「金で縛られないぶんだけ、好き勝手に出来る」といった理由でその彼を選んでいる可能性もあるわけで、「状態で選んでいる」ことには変わりがない。
ゆえに前者が悪く言われて後者を美談にするのはちょっと違うのではないかと思うのです。
わたしの理想は、彼の稼ぎで優雅に暮らすことや、彼の夢を支えることではなく、わたしが物書きとして生きていくことに、理解を示してもらうことでした。
けれども、ライター、しかもアダルト方面となると、なかなかそれが難しい。
保守的な男性であればあるほど、女がシモの話をすることにドン引いてしまいますし、ものわかりのいいタイプの人であっても、自分の恋人がアダルトな現場に取材にいったり、時に身体を張って体験したりを許容できる人はやはり少数なのです。
誰ならば、わたしを受け止めてくれるのか。
そんなふうに考えていた駆け出しの頃。とあるフリーライターの男性と出会いました。
物書きとして自分とは比べられないほど成功していた彼は眩しくかっこよく見えたし、この、同業者の彼ならば、わたしのしたいこともわかってくれるに違いないと思った。そうして恋に落ちて初めての同棲生活がスタートしたのです。
初めて付き合った同業種の男性との暮らしは楽しかったです。
デートのかわりに取材に同行し、毎月たくさん送られてくる雑誌は読み放題、酒を飲んではネタを出し合う。
けれども2年も経たないうちに、あっけなく別れることになりました。
別れの理由はとにかく小さい言い争いが多かったこと。
喧嘩の種は成功している彼へのわたしの嫉妬です。
愛おしい恋人ではなくライバルになってしまったのです。
彼からの嫉妬で分かった恋人選びの「条件」
「同業種はダメかもしれない」。
そう考えたわたしが次に選んだのは、まったく出版とはかけ離れた港湾労働者の男性でした。
朝の6時半には家を出て、帰宅は夜の7時。残業があれば9時半。労働時間は長いけれども、持ち帰りの仕事というものがないので、家に帰ってくれば後は仕事のことなど考えずに過ごせる。
その前に付き合っていた彼とわたしの生活には、仕事と休憩と遊びの時間の境目がほとんどなかったせいか、「こういう生活の仕方もあるんだ」と新鮮に思い、自分がいかに仕事に生活を絡み取られていたのかを、初めて自覚することになりました。
が、この彼との関係もやがて破綻します。理由は彼の嫉妬でした。
「俺にとって仕事っていうのは、自分の時間を切り売りして金をもらうこと」という彼は、取材や業界内の飲み会でちょっとした有名人に会ったり、打合せという名目で美味しい食事とお酒を楽しんでいるわたしの姿を見て、苛立ちを募らせていたようです。
実際は遊んでみえるその華やかな部分は仕事のごく一部で、物事を調べて原稿を書くという地味な作業のほうがずっと多いのですが。
しかも、その地道な作業もわたしは好きなのです。だって、それが好きでライターになったのですから。
けれどもその「仕事が好き」ということが彼のコンプレックスを刺激していたようです。
自分はちっとも好きな仕事が出来ていないというのに、恋人は「仕事が楽しい」とくりかえす。
その度に「僕は仕事の次、二番目だ」と言われている気分になるとのことでした。
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