中国語の「抜」はシモではない!?
「どうしたのかな?」といぶかしみながら、奥の個室ブースに足を踏み入れると、そこで見たのは、背中一面に吸い玉を施された夫の姿。「……なにこれ、どういうこと?」と尋ねると「お願い、記念に写真撮って!あと、痛いって言って!」。
なるほど、そのために呼ばれたのか。スマホで撮影し、ついでにスマホに「痛」とタイプして、夫の担当の施術師に見せると、笑いながら頷いてくれたので、役目は済んだかと、もといたリクライニングソファに戻ったものの「しかし、なんであの人は、吸い玉でのカッピングなんかに挑戦したのだろうか」と頭の中はハテナでいっぱい。
以前、わたしがエステでカッピングの施術を受け、赤い痣が残っていたのを夫に見せた時に、「それ、イノキがやってるやつだ、かっこいい!」と言っていたので、興味はあったのかもしれません。けれど、それにしても、この日本語はおろか英語さえも一切通じない店でようも、オプションを指定出来たものだ、と感心していたところ、夫が戻ってきて、その真相を語ってくれました。
いわく、「マッサージの途中に、担当のお姉さんが紙を見せてきて。そこに『抜』って文字があったもんだから、『おっ、この店は裏オプションでヌキがある!』と思ったんだよね……」。
そう、別料金でシモのサービス、手コキがあると勘違いした夫は、喜んでオプションを付けることを了承。すると、お姉さんにTシャツを脱がされ、オイルのようなものを背中に塗られ、「おお、これぞまさしく!」と期待に股間を半勃起。オイルマッサージからの手コキ、と待ちわびていたところ、突然背中の一部に、キュウッと引っ張られて、絞られるような痛みが。「えっ?」と驚いたものの、うつ伏せのために確認できず。しかも、やむことなく、それどころか、背中各所にどんどんと増えていく。その時点でようやくのこと、『抜』のある文字はカッピングを示すメニューだと気が付いたというのです。
風俗浮気未遂ですけど、正直、結果がバカバカしすぎて、怒る気にもなれない……まぁ、そもそもが我々夫婦は割れ鍋に綴じ蓋。そんなことでいちいち目くじらを立てるつもりはありません。相手を束縛すると、その縛りは、自分にも返ってきますからね。
……というようなことを、リオオリンピックの水泳の、マイケル・フェルプス選手の肩のカッピングの跡を見て思い出したのですが、風俗浮気未遂の是非はさておき、結婚って、こういう“ふたりの思い出”がどんどんと積みあがっていくことなんですよね。
何かの折に、ふたりで一緒にした経験を思い出して、「あの時は、ああだったね」と笑って話せる相手がいると、「人生を渡っていくのに、ひとりじゃないんだ」と思え、心に余裕が生まれます。「愛されること」は、心に余裕を得ること、「愛する」っていうことは、相手に余裕を与えることなんじゃないのかな、とわたしは思うのです。
Text/大泉りか