痴漢に遭ったのは「私」のせい?

そんなある時のことです。
その日、喫茶店でのバイトを終えて、自転車で帰途についていた時のこと。
わたしが当時住んでいた実家は、電灯の少ない、住宅地を入った奥にありました。
しかも、住宅地が途中で途切れて梅の木やキャベツの生産緑地といった人気のない場所を通るために、たまに痴漢が出るという話もあり、実際にわたしも何度か遭遇していました。

自転車を漕いでいると、後ろから車がすっと徐行してくるのがわかりました。
「嫌だな」と思いながらひたすらにペダルを漕いでいると、が、後ろから

「ねぇ、キミ、どこに行くの?」

と話しかけられたのです。

「帰るところです」
「ちょっと車の中でおしゃべりしない?」
「しません」

拒絶の言葉を発しながら、ふと車の中の男性に目をやると、その男性は下半身丸出し。
左手は屹立したペニスをシコシコと弄っていたのです。

慌てて自転車のペダルに力を入れると、アクセルを踏んだ音がしました。
自転車に横当たりにぶつけられて倒されてはたまらないと思って、慌てて携帯電話を取り出すと、恋人に電話を掛けましたが、何回かコールした後に留守電に切り替わってしました。
役立たず!仕方なく、繋がったふりをして、「あー、もしもし、わたし。もうすぐ家なんだけどさぁ、そっちは? あっ、迎えに出てきてくれる? ありがとう」と、さも電話の向こうの相手と会話している風を装うと、男はしばらくの間、わたしをジロジロと眺めた後、やがて諦めたのか車のスピードを早め、あっという間に追い越して走り去っていきました。

ようやく家にたどり着き、何頃もなく痴漢が過ぎ去ったことに安心して、一息ついていたところ、留守電を聞いた恋人からコールバックがありました。
「どうしたの?」というので、怖かったことを伝えたくて「いま、バイト帰りに家の近くで変質者につきまとわれて。痴漢に」と言ったところ、返ってきたのは「はっ? 夜道をうろうろしてるからだろ。お前が悪いよ」という言葉でした。

まさか被害者であるわたしが、責められるとは思っておらず「バイトの帰りなんだから、仕方ないじゃん」と言い返すと、「だったらバイト辞めろよ!俺に心配かけさせるなよ!!!」

恋人に、きっと悪気はなかったと思います。
しかし、あまりに自分勝手すぎる言葉に、さっと心が冷めました。

俺とは何様だ。
どんだけのものだ。

結局、この一言が、この恋人と別れたきっかけになりました。
次に会った時、別れを告げると「なんで?」と理由を聞きたがりました。
「痴漢にあった時に、わたしの心配するよりも前に自分のことばっかりだったから」とは言えませんでしたが、彼は「ずっと大切にしてきたのに、なんでだよ」と泣いていました。

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