キャバクラで私を指名してくれた人に映っていた自分自身の姿

共感できない私を指名してくれた人たち

大泉りか 人妻は不倫の夢を見るか? GordonsPictures

「どうでもいい会話で笑えない」、そんな性質を持つ女にとって、キャバ嬢という職業は「向いていない」の一言に尽きました。というのも、ほとんどのお客さんは楽しく飲みに来ているのです。だから、上機嫌でギャグを飛ばしたり、酒の上での与太話に相槌を求める。

その時に必要とされるのは、瞬発的な共感力です。ケラケラケラ、と明るく笑って「やっだぁ、おもしろい」と返すこと。なのに、こちらは、それができず、代わりに、お客さんの言っていることをいちいち受け止めて、考えてしまう。しかし、考えたところで、当然、ギャグや与太話に深い意味などあるわけもなく、「やっだぁ、おもしろい」という結論に達することもない。だから、笑えない。そんなふうに、せっかくのお客さんの楽しい気持ちに水を差すキャバ嬢にニーズがあるのか……というと、まったくないわけではないのです。

そんなわたしのことを、ボチボチと指名してくれる人も、いないことはないのでした。が、他の女のコのお客さんに比べて、面倒な人が多いというと語弊があるかもしれませんが、おかしな人が多いのは確かなことでした。飲んでいる最中、角界にまつわる陰謀論を話し続ける人や「この店の指名ナンバー1の女のコは、かつてピンサロで働いていたから俺は指名する気にはならない」といった先輩ホステスのゴシップを延々としゃべり続ける人など、他の女のコから「よく相手に出来るよねー」と苦笑される男性客ばかりが、わたしを指名してくれる常連さんでした。

当時は「なぜ!?」と疑問に思い、チャラいけれどもノリのいいイケメンサラリーマンたちに指名されている同僚たちのことを羨ましく思っていましたが、こうして一歩離れた今ではよくよくわかります。リーマンたちのギャグを真顔でスルーする女が指名を受けるわけがないのです。そして、陰謀論もゴシップも大好きなわたしは、ややこしい常連たちの話を熱心に聞いていたのだから当然のことです。