永久歯は戻らないが、失恋で得るものもある
25歳の時、年上の某クリエイターに大失恋した私は頭がおかしくなりました。
ずっと憧れていた彼と付き合ったものの、セフレどころかデリヘル以下の扱いを受け、私が重くなるとチリ紙のように捨てられ…という経緯は『59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』に詳しいので、よろしければどーぞ。
失恋後、ろくに睡眠も食事もとれなくなった私は、道に倒れて誰かの名を呼び続けるユリアをシンに奪われたケンシロウのような状態に。
見かねた女友達がコンパに連れ出してくれても「やっぱり彼じゃなきゃダメ…」と号泣しながら帰り、道ですっころんで前歯を折りました。
げっ歯類じゃないので、失った歯は二度と生えてきません。ミルキーは差し歯を持ってかれるので食べられない。
けれども失恋後、自分と向き合ったことでわかったことがあります。
私が好きだったのは「教祖として理想化した彼」であり、だからひどい扱いを受けても「本当の彼はそうじゃない」と信じたかった。
そんなふうに偶像崇拝したのは、自分以外の何かにすがりたかったから。自分を救うのは自分という覚悟がなかったから。
仕事に自信もなく逃げたかったから教祖の妻の座が欲しかったし、他人に人生を丸投げして乗っかりたかった。
結局、彼じゃなく自分の問題だった。
人前では自立したキャリア女ぶりつつ、本音は男にぶら下がりたかった自分。
そんな自分はみっともなくて目を背けたかったけど、向き合わないと前に進めなかったと思います。
失敗は何度してもいいけど、失敗から学ばないと幸せになれない。私もさんざん失敗して痛い目に遭ったから、59番目の夫の良さに気づけたのでしょう。
「反省しても後悔はしない」は綺麗事
だから「反省しても後悔はしない」と綺麗事を言うのはやめましょう。人は「なんであんな男と付き合ってもうたんや、ウオー!!」と死ぬほど後悔するから、とことん自分と向き合える。「過去は振り返らず前に進みます」とキラキラ言うのは、臭い物に蓋をして痛みから逃げているだけ。
人はみっともない自分を直視しないと学べないし、過去を否定するのは辛くても、きっちり振り返らないと同じ失敗を繰り返します。
「自分と向き合うことで前に進めた」と書いたけれど、失恋から立ち直るには時間が必要です。3ヶ月ぐらいは息してるだけで拷問なので、じりじりと時間が過ぎるのを待つしかない。
その間、私がひっそり息をひきとらずにすんだのは、女友達とガンダムのお陰でした。
失恋直後「彼には感謝もしてる、それに殴られたとかお金盗られたとかじゃないし…」とウダウダ言う私に、女友達が「あいつは大変なものを傷つけた、あんたの心だ!」と銭形のように怒ってくれて「自分は踏みにじられていい人間じゃない」と自尊心を回復できました。
友人たちは失恋旅行にも付き合ってくれて、旅先で朝、ひとりで海岸を歩きながら「大事に思ってくれる人がいるのだから、私も私を大事にしなければ、彼への未練を断ち切ろう」と決意。その誓いを忘れないために綺麗な貝殻を拾いました。
その後、宿に戻ったら「洗面所にゴミあったからほかしたで」と貝殻は捨てられていました。珍しく乙女な行動をしたらこのザマか。
失恋の乗り越え方は人それぞれ。異性のいる場に出かけて「男は彼だけじゃない」と実感することで希望の光が差す人もいます。ただし溺れる者は糞をもつかむで、クソ男に引っかかる二次被害には要注意。今はヤバそうと思うなら同性の友人と過ごしましょう。
何かに没頭してやり過ごす人もいます。私は昔から辛い時は二次元に逃避していました。
クリエイター氏に失恋した後はガンダムのDVDを見続けて、すると脳内が宇宙世紀で満たされて彼のことを考えずにすんだ。それにドズルやランバ・ラルのような漢の中の漢と比べると「あんな男、カスであると!」と思えた。
そうやって立ち直るまでの時間を稼いで、その数年後にガンダムの着メロがキッカケで夫と出会ったのだから、人生とは珍奇なもの。
許そうと思って許すのは、本当の許しじゃない
失恋後は貝を拾うなど乙女な行動をするより「カスであると!」と呪詛を吐くのがオススメです。
一度は好きになった男を悪く思いたくないし、過去を否定するのは辛いけど、思い出を美化しても「彼以上に愛せる人はいない」と堂々巡りになっていいことがない。
失恋で傷ついた女子には「許さなくていい」と言いたいです。
傷ついたら相手を憎んで恨んで当然なのに「許すのが正しい、許すべきだ」と思って、許せない自分にますます苦しむなんてバカげている。それに許そうと思って許すのは、本当の許しではありません。本当の許しとは、どうでもよくなること。
失恋直後は「彼には幸せになってほしい」と呟いた3秒後に「すべての地獄を味わって死ね!!」と叫んでいたのが、「あいつが死のうが生きようがどうでもええわ」と心から思える日がやってくる、それが許すということ。
クリエイター氏に振られた数年後、彼がとあるインタビューで「仕事のできる男の条件は?」と聞かれて「必要のないものを切り捨てる能力」と答えてるのを読んで「私は切り捨てられたのね」と平然と思いました。
心が微動だにしなかったのは、私にとってもうどうでもいい存在だったから。愛憎も怨念も執着も自然消滅してしまった、それが本当に許すという状態。
許しは勝手にやってくるものだから、無理に許そうとしなくていいんです。
何より一番は、自分が幸せになること。「幸福に暮らすことが最高の復讐」というスペインのことわざがありますが、現在が幸福であれば過去の記憶が蘇っても「今が幸せだし、まあいっか」と思えるものだから。
脳内は不可侵領域、どんな方法で殺戮しようがOK
とはいえ、元彼への怨念を成仏させられず苦しむ女子もいます。
それも怨念を抱く自身への嫌悪感や罪悪感が大きいので「恨んで憎んでオッケー」と己に許可しましょう。
自尊心を踏みにじられたら怒るのがまっとうであり、むしろ怒れない方がマズい(「私なんて踏みにじられて当然」と自尊感情がない証拠だから)
脳内は不可侵領域で、何をしようが自由。自分を傷つけた相手をどんな方法で殺戮しようがかまわない。大蛇に丸飲みされてしまえと呪っても、元彼の家に大蛇を放たなければいいのです。人権蹂躙されたら殺意を抱くのが自然なのに「殺したいなんて思っちゃダメだ」と抑圧するからマジで殺しちゃったりするんです。
マイナスな感情は一人で抱えていると膨らむので、爆発する前に吐き出しましょう。
そもそも日本人は建前&正論好きで「恋愛はイーブン、どちらか一方が悪いわけではない」「好きで付き合ったのだから自己責任」等と言われがち。
でもイーブンじゃない恋愛関係なんてクソほどあるし、薄っぺらい自己責任論は思考停止を招きます。
(「好きになった自分が悪い」で終了すると「なぜあんな男にハマったのか?」と原因を深掘りできない)
建前好きの日本には「別れても幸せを祈ってる」系のしゃらくせえ失恋ソングが溢れています。
一方、西洋の歌姫テイラー・スウィフトなんて元彼へのリベンジソングを歌ってガッポガッポ稼いでいるし、国民も「ええぞ、もっと言うたれ!」と大フィーバーしている。
そんなスウィフト嬢をお手本に「幸せを祈ってる」なんて綺麗事じゃなく「生霊を飛ばしてる」といったリベンジソングを作曲してはどうか。その動画をネットにアップすれば面白いんじゃないでしょうか。
そもそも建前や正論はつまらなくて「彼のお陰で成長できた」とか言われてもクスリとも笑えないが、「地獄のプールで鬼と水泳大会でもするがよい!!」と叫ばれると景気よく笑えます。
笑えればいいのかと思うでしょうが、笑えればいいんです。笑った方がスッキリして元気が出るから。
そして、そんな時こそ女友達の出番です。みんなで元彼に「股クサ男」「ビチグソ太郎」といったあだ名をつけて、恨み川柳を詠む会を開催してはどうでしょう。または『地獄』などの絵本に元彼の写真をアイコラすれば、ゲラッゲラ笑えてスッキリするはず。
それで「ま、あいつのお陰でこれだけ笑えたしな」と思うと、気づくと怨念が減っています。
元彼を成仏させるには、笑い飛ばすのが一番。「失恋のぶんだけ優しくなれる」とか言うけど、べつに優しくならなくていいので、失恋のぶんだけ笑いましょう!
次回は、【男もラーメンも己の舌で判断せよ!生涯唯一のパートナーに出会う方法】をお届けします!
Text/アルテイシア
初出:2015.12.02