スペックの良さに甘んじない二人の王子

 実はこの作品には、もうひとりの王子様がいます。A国の第一王女をはじめ数々のセレブ女を虜にしている左大臣「ムーンライト=サラディーン」です。
「歌って踊れてトークもできるA国一のイケメン俳優」、デビュー時のキャッチコピーは『漆黒の砂漠の夜を照らす月明かり』……と、絵に描いたようなチャライケメンのムーンライトは、女たちをメロメロにしている一方で、左大臣としては「お飾り」だと舐められてもいます。しかし、そんな彼にナランバヤルが「俺も王女様のあんたが頼りだぜ」と言い、国交回復に向けて動くよう背中を押すと、自身の政治的立場をフル活用し、目的を達成しようとがんばります(このシーン、チャライケメンだからってバカにしないナランバヤルもいい男なんですよね〜)。

 つまりこの物語には「賢い王子様」と「イケメンの王子様」が出て来ており、しかもふたりは「努力する王子様」でもあるわけです。スペックの良さに甘んじることのない姿勢が、彼らをより輝かせている……結局のところ、学歴とか見た目のよさを評価されて満足しちゃう男ってダサいですからね。変化や進歩がある男が、やっぱりカッコいいですからね。

 作品を読んでもらえればわかるのですが、サーラは可愛らしいけれど、決して美人ではないですし、ぶっちゃけぽっちゃりしすぎのお姫様です。が、ナランバヤルは、そんなサーラに心底惚れ込んでいます。賢くて、努力もできて、女を容姿で判断しないし、猫に「オドンメチグ=星の輝き」なんて名前をつけちゃうロマンチストだけど、ナルシストじゃない(むしろ照れ屋)。

 なにこれ。嫌いになる要素がひとつもないじゃないか。ストーリー自体もですが、王子様の性格も「好きなおかずしか入ってないお弁当」みたい……わたしはもうお腹いっぱいです(幸せ)!

Text/トミヤマユキコ

次回は<すぐ不倫する男と束縛する男の共通点とは?『あなたのことはそれほど』>です。
4月にドラマ化を控えているW不倫がテーマの漫画『あなたのことはそれほど』。作者のいくえみ綾さんが描くのは、既婚者でありながら好きな人ができたしまった男女と、不幸にもそれを知ってしまったパートナーの心模様です。そんな関係性の当事者にあたる、まったくもって推せない、というより推してはいけない王子様とは?