他人の好意を利用しても自尊心は満たしきれない
わたしの不倫関係、と書くとよけいな重みがのしかかってしまいそうなので言い訳させてもらうと、付き合いを続けるなかで相手が既婚者だと判明した、そんな恋愛関係だった。
その後、戸惑って距離を置いてみたり、身体の関係も持たなかった。
しかし、その相手が当時のわたしの仕事の道を導いてくれる立場にもあったので、完全に会わないという選択ができなかった。
実際に寂聴さんが不倫関係にあったのは小田仁二郎という作家で、彼のもとで彼女は文学を学んだという。
小田をモデルとした慎吾(小林薫)と知子の関係と、わたし自身の経験がリンクして見えた。
もしかすると、仕事のつながりがなければわたしも知子も、この恋愛関係にこだわって熱を上げることはなかったかもしれない。
先述の通り、不倫関係とは別にわたしは、年下の男性と恋愛関係を持ってみたり、そのほかにもまた別の既婚男性からアプローチを受けてデートをしたこともあった。
けれど、どれも虚しかった。
『夏の終り』でも、慎吾に隠れて、知子は年下の涼太(綾野剛)と関係していた。
慎吾のことを知っていた涼太は不安を募らせながらも知子に執着するが、自分を都合よくつなぎとめる彼女の身勝手さを「ふしだらで、淫らで、だらしがないよ」と言い放ち、ついには冷たく突き放してしまう。
本命の男性との関係が不安定であることや、仕事に対して未熟で上手くいかないことの代わりに別の男性との関係で埋めようとしても、根本的な問題は解決しない。
本作での慎吾も、知子も、相手に優しいけれど自分の都合がいちばんで、相手と向き合わず、結局は現状のぬるい心地良さを維持しようとする。
世間的に良しとされない関係にあるということ以上に、自分ときちんと向き合ってくれない彼との関係に疲れ、自信を失っていたわたしを支えたのは、仕事だった。
ある程度は他人からの承認が必要だけれど、自尊心は自分で築き上げる必要がある。
彼との仕事を踏み台にし、独り立ちして乗り越えたいという一心で励み、最終的に関係を清算することができた。