感情のジェットコースターに苦しんでいる人に勧めたい本

と、偉そうなことを言ってみたが、実は私も初見のとき、この映画の主人公に対して「あんた、それってどうなの?」と思ってしまった側の人間である。でもそこで思い直したのだ、今までそんなにアニメとか見るほうじゃなかったのに、急に推しカプができてしまった自分のことを。電車を待っているときにふと涙が溢れそうになったり、焼きマロを送る人の気持ちがわかる自分になってしまったことを。正しくない、くだらない、カッコ悪い。すべてわかっていて、それでもまだ激しく心を揺さぶられる自分がいることを。本当に、明日は我が身だ。「それって自立できてない証拠だよ」なんて、まあ、簡単に他人に言わないほうがいいよなと思う。

最後になってしまったけど、今、二次元でも三次元でも感情のジェットコースターに苦しんでいる人がいたら、私はロラン・バルトの『恋愛のディスクール・断章』を勧めたい。

「嫉妬する私は四度苦しむ。嫉妬に苦しみ、嫉妬している自分を責めて苦しみ、自分の嫉妬があの人を傷つけるのをおそれて苦しみ、嫉妬などという卑俗な気持ちに負けたことで苦しむのだ。つまりは、自分が排除されたこと、自分が攻撃的になっていること、自分が狂っていること、自分が並の人間であることを苦しむのである(p.221)」。

「焼きマロ送ったろか」の苦しい気持ちを、ロラン・バルトがまさに表現してくれている。この他にも、今まさに辛い気持ちでいる人に届く言葉がたくさんある。あなたの心情に寄り添ってくれる表現も、きっとある。

苦しい気持ちでいる人にも、そんなものはもう手放してしまったという人にも、『シンプルな情熱』と『恋愛のディスクール・断章』は、ぜひ目を通してみてもらいたい。

不条理で不合理なことをどこまで許せるか。それは、人生のゆとりになると思う。

Text/チェコ好き(和田真里奈)

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