人は歳をとると自分自身を受け入れる。私は私どうにもならない/雨宮まみ×青野賢一対談(2)

今回は、映画『アドバンスト・スタイル そのファッションが、人生』の公開にあわせて下北沢B&Bで行われた、BEAMSクリエイティブディレクター・青野賢一さん×『東京を生きる』を執筆されたライター・雨宮まみさんのトークイベントのレポート記事をお送りします。

雨宮まみ×青野賢一 『アドバンスト・スタイル そのファッションが、人生』

路上で知らない者同士がとるコミュニケーション

青野賢一さん(以下敬称略)

東京は、全然知らないもの同士が路上でコミュニケーションすることって、スナップ撮らせてください、位しかないですよね。

雨宮まみさん(以下敬称略)

海外だと、すれ違うときに普通に「その服素敵ね」とか言う人、いますよね。
日本ではあんまりないですが、たまにお歳を召した方に「その帽子いいわね、どこで買ったの?」とか、普通に訊かれることもあったりして。そういうの、言えるといいなあと思うんです。
自分も素敵な人に「素敵ですね」とただ言いたいときがあるんですが、不審者と思われるのが怖くて。

青野

ガードが固い感じですよね。
街を歩いている時でも、なるべくそういうものを遠ざけたいというか、面倒くさいものを避けたい気持ちは確実にありますよね。

雨宮

ただ一言、賞賛したいだけなんですけどね。でも、そういう声のかけ方に慣れてないので、どうしても不自然になりそうです…。

青野

そこで、うまく伝わればいいんですけどね。なんて一言目にしようとか考えちゃう(笑)。

雨宮

『東京を生きる』でも書いてるんですけど、たまに本当に素敵な人を見かけることがあって、そのコーディネートやその人の佇まいをしっかり見たくて、しばらくそっと追いかけちゃったりすることがあります。
ほんとは写真撮りたいくらいなんですけど…。我慢して、目に焼き付けてます。

青野

本の話が出ましたね。今、雨宮さんが目に焼き付けるといいましたが、ぼくは『東京を生きる』を読んで、あなたの目線の強さというか、見る力がすごいなと思って読んでいたんです。
なんでもない景色に関するディテールの言及の仕方とか、人の姿を見る視点がすごいなと。だから僕も今日気が抜けない感じで(笑)。
それは自意識過剰かもしれないけど、そう思ってしまうほど、目の力が凝縮されている本だなって。

雨宮

見るのは確かに好きなんですよね。でも、自分の見たものの中からいいものを選べるかというとそうでもなくて、たくさん見ていると、どれもいいと思ってしまうんです。
東京って、本当に色んなスタイルがあって、家具や服、全てにいい物があるから、高いものも安いものも、北欧もアンティークもいいなとか思っちゃって。でも、それぞれはセンスのいいものでも、ごちゃごちゃに置いて合うわけじゃないんですよね。
ふと振り返ると、だいたいごちゃごちゃになっているので、『人生ががときめく片付けの魔法』を再読しては、捨てに捨てまくったりしてます(笑)。
そういう人、すごく多いと思います。

日本の褒め言葉「かわいい」の相容れなさ

雨宮

『アドバンスト・スタイル』のような世界観が、東京で成立しない理由のひとつとして、『女の子よ銃を取れ』という本でも書いたんですが、日本では「かわいい」っていう褒め言葉がすごく強いんですよね。
「かわいい」って、年齢を重ねていくこととは相容れないじゃないですか。
「かわいいおばあちゃん」みたいな言い方もあるけど、ちょっとバカにしてるところがある気がして、私はあまり好きじゃないんです。
かわいいかかわいくないかしかないのかな、と思ってたときに、「ティムガンのファッションチェック」という、素人が変身していく番組を見たんです。そしたら褒め言葉がすごく豊富で。「存在感がある」「すごくシックだね」「ゴージャスだよ」とか…。「かわいい」とか「きれいだね」はほとんどなかった。
こんなにたくさんの褒め言葉があるのに、なぜ「かわいい」だけになってしまうんだろうって、褒め言葉の貧しさを感じてしまいました。「かわいい」以外にも、自信を持たせてくれる言葉はたくさんあるのに。

青野

かわいいといっときゃ、何か伝わっている気がするみたいなのはありますね。

雨宮

どんなに褒められても、「かわいい」と言われないと不安になる気持ちも正直あります。
「かわいい」と言われることが好意の証、みたいに思っちゃうんですよね。

青野

すごくレンジが広い言葉ですよね。なので、便利な言葉というところはあるかもしれません。

雨宮

ちょっと褒める時に、ほとんどその言葉でまかなえるので、豊かな言葉ではあるんですけど、歳を取るとやっぱりかわいいと縁を切らなきゃならなくなるっていうことがすごく恐怖で。でも『アドバンスト~』のこういう形で美しく着飾っている人を見ると、かわいいとかにこだわってる場合じゃないよなって。元気付けられます。力強いですね。

青野

パワフルですよね。白いフリルのついた傘が映画に出てくるんですけど、可愛いという言葉で表現されるような小物でも、たとえば違うスタイリングをしたら、また違う存在感や価値を与えられる。どういう風に組み合わせるか、ということで「かわいい」ではなく、スタイルが生まれるってことはありますね。