ひとり暮らしを楽しむこと、老いを楽しむこと

変わらない単調な日々と言いつつ、時間はどんな人にも平等に訪れるので、体はどうしたって衰えていく。そのせいか、『ひとり暮らし』には老いについて書かれている部分も少なくない。
「結婚式よりも葬式のほうが好きだ。葬式には未来がなく過去しかないから気楽である。結婚式には過去がなく未来ばかりあるから、気の休まるひまがない」という文章が『ひとり暮らし』にはあるのだけど、そういうものだろうか。多くの人が寂しい、虚しい、悲しいととらえるところを、谷川俊太郎さんは楽しい、自由だ、気楽だと書いている。もしかしたらこれらの要素は、表裏一体なのかもしれない。

自分のことだけを考えていればよかった10代20代が終わり、30代を越えると、「自分以外の誰かのため」に生きることを考えるようになる人も少なくない。ひとり暮らしの大人にはその選択があたえられていない場合が多いので、これをもどかしく感じる人もいるのだろうけど……谷川俊太郎さんや、あとは上野千鶴子さんの『おひとりさまの老後』などを読んでいると、どうやら老人になると、もう一度「ひとり」に向き合わなければいけない時期がやってくるみたいだ。

「他人に求められなくとも、自分のうちから湧いてくる歓びをどこまでもっていられるか、それが私にとっての老いの課題かもしれない」と谷川俊太郎さんは書く。
「自分のうちから湧いてくる歓び」を考えることは、ひとり暮らしの人間が毎日を虚しいと思わないために、すごく重要だ。

ひとり暮らしを楽しめるか否かは、老いを楽しめるか否かと、共通する部分があるのかもしれない。上手な老い方の訓練をしていると思えば、ひとり暮らしの虚しさも、少し軽減されはしないだろうか。