銀座からほど近い昭和の空気を残す純喫茶
皆さんは、「好きなのに緊張してしまう街」はありますか。私にとってその一つが銀座です。
大人になれば自然とその街の空気に溶け込めるのではないかと期待していたのですが、今でも緊張してどこかぎこちなくなってしまいます。
それゆえに、多少遠回りになるとしても、比較的近いJRの有楽町駅や新橋駅で下車してから目的地へ向かう癖がついてしまいました。同じように感じる方は、華やかな空間へ入るための心の準備としてお気に入りの純喫茶でひと息つく時間を作ってみてはいかがでしょうか。
今回は、JR有楽町駅前にある昭和の空気を色濃く残す純喫茶を紹介します。
銀座から近いこともあり、中央改札口へ出るとファッションビルが立ち並ぶ眩しい光景が広がりますが、その近くにある東京交通会館は50年以上の歴史があり、館内には当時から変わっていないような懐かしさを感じる飲食店も多数。
中でも圧倒的な広さを誇り、いつも賑わっているのが「ローヤル」です。掲げられた看板に「純喫茶」とあることは今では貴重。入口には食品サンプルが並ぶガラスケースも健在です。
空間は大きく2つに区切られ、どちらもゆったりと腰掛けることの出来る赤くて低い椅子が特徴的です。
白いシャツに黒いパンツスタイルといった正装の男性ウエイターの接客はきびきびとしていますが、注文の品が来た後は放っておいてくれる気遣いが居心地良さの理由かもしれません。
人気のハニートーストは食後のデザートにはありあまるほどの分厚さでありながらも、たっぷりバターとはちみつの美味しさでいつの間にか完食を。
「お元気ですか?」「相変わらずね。そちらも元気そうで。」何度も繰り返したマスターとのやり取りの中に「でも、いつまでこのビルで続けていけるのかなあ。」とマスターのつぶやきが混じり、続く言葉を失ってしまいました。
駅前にある便利さは再開発と隣合せであることは承知の上ですが、次々と景色を変えて華やかになっていく街の近くには、ローヤルのように変わらない憩いの場がいつまでもあってほしいと勝手ながら強く願うのでした。
Text/難波里奈
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※2016年3月25日に「SOLO」で掲載しました