白黒つけられない「グレー」な気持ちを保存しておく
デートでお金を払わされるなんて不幸。浮気をされるなんて不幸。恋人と長続きしないなんて不幸。彼が無職なんて不幸。仕事が充実していないなんて不幸。友達がいないなんて不幸。介護などの事情があるわけでもないのに実家で暮らしている独身なんて不幸。
世の中にはそんな「いわゆる不幸」のイメージが溢れかえっていて、しかもそれは多くの場合あからさまに否定できないというか、「まあ、そうかも」とこちらを思わせるある種の正しさを持っています。
だけど、そんな正しさに押し殺されることなく、自分自身の意志を貫く──というのもまた普通の人間には難しいし、やっぱり小遣いをせびってパチンコに行くようなヒモに寄生されている生活が、そう長く続くとも思えません。
したがって、このあたりはバランス感覚が要求されるでしょうが、「世俗の風」を無理して跳ね返すでもなく、しかし完全に飲まれて自らの向く方向を変えてしまうでもなく。
小説の中の千田サンが考えたように、「間違いだらけだったかもしれないけど、あれはあれでけっこう幸せだったんだよな」という気持ちを、石みたいに固めて保存しておく。正しいとも間違っているとも言わずに、そこは苦笑いでノーコメントにしてしまって、そっと胸のうちにしまっておく。
そんなことがもしできたら、自分自身が救われるのはもちろんだけど、他人に対しても少し寛容になれる気がします。
また不毛な恋愛してるよとか、また上司の愚痴言ってるよとか、自分にも他人にもいろいろ思うことはあるけれど、人間そんなにはっきり白黒つけられません。自分の中のグレーな部分をこっそりしまっておいて、普段は流しておいて、いざというときだけパカっと蓋をあけてあげる。なんかババくさいし卑怯な気もしますが、強くなるってそういうことなのかもしれません。
というわけで私も、家から一歩も出ずに朝から晩まで読書している自分を、あまり責めないであげようと思います。ああでも、あったかくなって来たし、たまには友達とランチにでも行こうかな。
『孤独な夜のココア』は、そんなグレーな気持ちがたくさん詰まった短編集なので、気になる方はぜひ手にとってみてください。
Text/チェコ好き
※2017年5月25日に「SOLO」で掲載しました
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