一筋縄ではいかない恋愛小説家に学ぶ、正反対の2つの視点を持つことについて

おひとりさまの読者のみなさんは、クリスマスや年始もお一人で過ごしましたかねそうですよね。
一方の私は、「キリスト教徒じゃないんで」とかベタな言い訳をしつつ浮かれた街のムードを無視していましたが、今回はそんなみなさんに、喧嘩を売るかのごとくとある恋愛小説をすすめてみようかと思っています。

ロマンチックな『日々の泡』と、裁判沙汰になったもう1冊

男女が物思いに耽る写真 bortescristian

とある恋愛小説とは、ボリス・ヴィアンの『日々の泡』。こちらは岡崎京子が『うたかたの日々』という邦題で漫画化したり、ミシェル・ゴンドリーが『ムード・インディゴ うたかたの日々』というタイトルで映画化したりしているので、なんらかの形でストーリーを知っている人もいるかもしれません。

資産家の息子でお金持ちのコランが、パーティーで知り合った女性クロエと恋に落ち結婚するのですが、なんとクロエは肺に睡蓮の蕾ができるという奇病にかかってしまいます。クロエの病気を治すため、コランは常に部屋に大量の花を飾っておかなければなりません。しかし、日に日にかさんでいく花代のせいで、コランの資産も乏しくなっていき……というのが主なあらすじです。

このように、あらすじだけ記述するとよくある「病気が2人の愛を引き離しちゃう系」に思えなくもない『日々の泡』ですが、よく読むと「肺に睡蓮の花……?」とそもそもクロエの病気が意味不明だし、コランについては資産家の息子のくせに花代くらいで生活苦になるのかよ、と突っ込みたくなるところも満載です。

だけどそのシュールさがこの小説のいちばんの魅力でもあり、他にも水道の蛇口からウナギが出てきたり、ネズミがしゃべったりするので、細かいことはいちいち気にしていられません。ところどころで「はあああああ???」と思いつつも作品世界に吸い込まれ、意味不明なはずのその描写に、この世の物とは思えない美しさや儚さが見てとれてしまう、というのがこの『日々の泡』なのです

しかし、『日々の泡』はかなり奇妙であるとはいえ、基本的にはどこまでもロマンチックな恋愛小説です。12月に『日々の泡』を読んだりしたら、もしかしたら1人でいるのがちょっとさみしくなってしまうかもしれません。
そこで、そんなあなたにおすすめしたいもう1冊が、ヴァーノン・サリヴァンの小説『墓に唾をかけろ』。こちらはタイトルからしてとんでもねえですが、ストーリーもとんでもない。黒人の弟をリンチされ殺された兄が、白人の姉妹を弄んだ上に殺して復讐するという物語です。性描写や暴力描写がかなり生々しく下品なので、俗悪な人種差別小説として、出版当時は裁判沙汰にもなったそう。

なんでそんな小説を『日々の泡』と一緒にすすめるのかというと、実はこの2つ、作者が同じなんですよ。
ヴァーノン・サリヴァンというのは、ボリス・ヴィアンが名乗った別の名前として、広く知られています。一方でベタベタに甘い恋愛小説(変だけど)を書いておいて、別の名前で裁判沙汰になるほどの禁書を書くボリス・ヴィアンという作家、ミステリアスで謎が尽きないので私は大好きなんです。