「自由な中年女」になりたい
アカデミー賞・衣装デザイン賞の名の通り、それぞれの衣装にはこだわりがあり、見ているだけで幸せな気持ちにさせられて素晴らしかった。とりわけ、私が「いいな」と思ったのは、ジョーのユニセックスな装いだ。ほかの登場人物の衣装と対比するとよくわかるが、そんなファッションをしていたのは、結婚だけを幸せだとは思わない、小説家になることを夢見ているジョーだけだ。ティモシー・シャラメ演じる幼馴染ローリーと服や小物を交換しているシーンから2人の心的距離の近さがうかがえるし、なのに、どうしても恋愛対象や結婚相手としてローリーを受け入れることができないジョーの心情が衣装によって表現されているみたいで、涙を溜めつつ見ていたのだった。
これは私の実体験だけをもとにした考えなのだが、結婚や男性に選ばれて幸せになるという思想に疑問を持ち、男性に守られる自分や一般的に想像される「女性らしさ」に違和感を覚えると、自分の思考回路や服装、しぐさ、行動、さまざまな部分に自分の想像する「男性らしさ」を取り入れるようになる。女性としてナメられないように、できるだけ対等に扱ってもらえるように、自分の女性的な部分を気づかないうちに押しつぶす。気づかないだけで、多分そうやって自分の「女性らしさ」とは反する人格を形成していく。だって、男性に選ばれることと男性の気に入る個性であることは、私の幸せではないから。
そういう、意思の強さというか、ありたい自分の姿というのが、ジョーの衣装には強く反映されていたように思う。そして、本当は性別を切り離して自分を考えていたいのに、私は女性という部分にかなり執着し、こだわりを持っているんじゃないか? ということにも気づかされた。
「ジョーの思い描く、本当のハッピーエンドは何だったのだろう?」「私の本当の幸せって、なんなんだろう?」と、見終わってから1週間経った今でも考えている。
ただ、劇中に台詞にある「自由な中年女」に私はなりたい。性別にも、男社会にも振り回されないように。自分の女性らしさをかき消すという意味で男性の目を気にせず、自分らしく、好きなように振る舞えるように。
Text/あたそ
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