年を取って「将来の可能性がなくなる」にはメリットが!――群ようこ『老いとお金』を読む

「欲しいものをすべて手に入れた人生」というと、億のタワマン、イケメンもしくは美女の配偶者、自身の輝かしいキャリア、子供、犬……みたいな感じを、ついつい連想してしまうだろう。そして、私はそれらを1つも持っていない。しかし、37歳の今「欲しいものをすべては言い過ぎだけど、8割くらいは手に入った人生になったな」と思っており、自分的にはおおむね満足している。

まあ、現時点で手に入っていてもこれからそれらを失う可能性は(私だけに限らず誰だって)あるので、そんなに悠長に構えられているわけでもないけど……。自分1人をとりあえず食わせられるだけの稼ぎとキャリア、読書と映画鑑賞と執筆ができる時間の余裕、そしてオタ友! これらが私がこの人生でどうしても手に入れたくて、そして実際に手に入れたものたちだ。

しかし、満足度8割のまあ悪くないこの人生、手に入らなかったほうの2割に入っているのが、私の場合は「お金」だなー、と最近つくづく思う。自分1人ならどうにか食わせられる稼ぎはあるものの、本当は、もっともっと稼げる人間になりたかった。でも、根が怠け者で基本スタンスが「働きたくねえ」なので、無理だった(ここ、笑うところです)。

億のタワマンじゃなくていいけど、都心の駅近でかっこいい中古リノベーションマンションが欲しかった。海外旅行にももっと行きたかった。45歳くらいで仕事を辞めて、あとはゆるゆるFIREで生活したかった。人間って強欲ですね!

さて、そんな感じで「もっとお金があれば満足度100%の人生なのになあ」と今日もぼんやり空を眺めている私だが、今回は群ようこさんのエッセイ『老いとお金』について話をしたい。

満足度80%くらいがちょうどいい?

老いとお金 (角川文庫)/群 ようこ/KADOKAWA

本書はタイトルのとおり、年金、親の介護、実家の相続などについて書かれたエッセイである。が、目を引いてしまうのはやっぱり、群ようこさんの母や弟とのお金に関するトラブルだろう。

本が売れて長者番付に載ったのを嗅ぎつけられ、家族に生活費を渡したり家を買ってあげたりしているうちに揉め事が起き、弟と絶縁に近い状態になってしまった顛末がけっこう詳しく書かれている。

私が言うと「酸っぱいブドウ」にしか聞こえないかもしれないが、案外「もっとお金があったら満足度100%の人生なのになあ」とぼんやり空を眺めているくらいがいちばん幸せなのかもしれない……。とはいえ、身内トラブルなどのドロドロした話もあっさりとした筆致で書かれているので、読んでいてもそこまで暗い気分にはならないので安心してほしい。

同時に、やっぱりお金に対する価値観や眼差しって、育った時代の影響をとても強く受けるのだと実感した。本書では群ようこさんが稼いだお金を着物などの趣味にばんばん投じている様子が書かれているが、そのベースには「すっからかんになっても何とかなるだろう」という社会への強い信頼のようなものが感じられる。

群ようこさんは1954年生まれの69歳、今の30〜40代はなかなかこういう価値観にはなれないだろうな……と、ちょっと眩しく思えてしまった。今の40代以下は「そろそろ日本はまじでダメかもしれん」と思って生活している人が大半だと思うし、それは当然ながらお金の使い方に影響する。